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楽しい地元のイベント(3)
颯爽と飛び出していった僕が見たステージの上は…既に燃え盛る炎で包まれていた。
ああ…
僕がいなくても、ちゃんと見えてるじゃないか…
思いながら…僕はその、炎の中に飛び込んでいった。
僕がステージに飛び込んだ途端に、そこは燃え盛る瓦礫の山になった。
その一角で僕は…
愛するマネキンに語りかけるように、歌い始めた。
「よくあんなにシュッと入れるもんだよな…」
ハルトが呟いた。
「アウェイなんて言ってましたけど…全然大丈夫そうですね…」
頷きながら、ショウヤも言った。
そして、いつものように…いやむしろいつも以上に、調子良く1曲目を終えて…
楽しい夫婦漫才MCが始まった。
「地元のみんな…久しぶりー!」
「え、まさかもう忘れちゃった?」
「TALKING DOLL…通称トキドルー!忘れちゃった人も、初めましての人も…今日はしっかり覚えてってねー」
「忘れられないようにしてやる…」
「きゃー」
「やばっ…かっこいいー」
やっぱ絶対ホストクラブ勤まるわ…
「ついてきてねー」
客席に向かってホストサエゾウが、投げキスを送った。
歓声冷めやらぬ中…次の曲が始まった。
おちゃらけたMCからは、想像も及ばないないような…切ない螺旋…
続いて、すっかり切なくなったところへの、この上無く激しいmasquerade…
ホストのMCだけでなく…観客の誰もが、その曲にも惹かれ、飲み込まれていくのが、スタージの上からも、よく分かった。
そして…次は、新曲だった。
先日、サエゾウと一緒に作った…黒いワルツ…
怪しげな3拍子のギターが、その会場を、人形たちの舞踏会の世界へと誘導させた。
ふと、僕は…客席の後ろの方から…
奇妙な視線を感じた。
何だろう…
すごく不思議な感覚なんだけど…
僕らから発信する…その世界観に混ざって、そこからも何かが、じわじわと湧き出ているような気がした。
その効果も手伝って…黒いワルツの映像は、いつになく鮮やかで迫力に満ちていた。
ジャンジャン!
曲が終わって…客席は、大きな溜息からの…
拍手と歓声に包まれた。
そして、間髪を入れずに…
サエゾウが、あの、例の…やばいアコースティック宵待ちのイントロを弾き始めた。
「…」
既に相当なダメージを負っていた僕に…
それはまさに、トドメの一撃をぶちこんできた。
僕は、その場にバタッと膝をついてしまった。
「…」
観客の多くが息を飲む中…
僕は、吐息で喘ぐように…歌い始めた。
「うわあ…ヤバいです…」
思わず、フラついてしまったショウヤは…隣のハルトの腕を掴んでしまった。
「…あんなエロ声も出せんのか…」
ハルトは、必死に両足に力を入れて…耐えた。
そして、激しいサビに入る瞬間に、僕は渾身の力を振り絞って、立ち上がった。
会場は、真夜中の公園になり…
見上げる空には、青白い宵待ちの月が立ち昇った。
伝説に残るような、素晴らしい宵待ちだった。
曲が終わって…僕は再び、その場に膝をつくと…そのまま両手を床についてしまった。
「あーあ…」
ハルトが思わず呟いた。
「えっ?」
ショウヤは彼の方を向いた。
「やっぱ履かしといて正解だったわ」
「…っ」
顔を見合わせて…2人は、小さく笑った。
「次で最後だからねーみんな、悔いの無いように盛り上がってってねー」
「えー?」
「アンコールー」
「もっと観たいやつは、また来たらいい」
「そーゆう事ー!」
そんな強気の最後のMCも終わり…
神様のイントロが始まった。
そして僕はまた…力無く、震えながら立ち上がった。
客席が、揺れていた。
皆、手を振り上げて、身体を揺らしていた。
僕は、そんな彼らを…またも、ハメルンの笛吹きのように、ひとり残らず連れ去った。
そんな大盛り上がりの中…曲が終わった。
幕の無いステージで…
僕らは、倒れるわけにはいかなかった。
ドラムから出てきたカイに、身体を支えられながら…僕らは並んで、客席に向かって頭を下げた。
パチパチパチパチ…
鳴り止まない拍手の中、ハルトとショウヤが、ステージに近寄ってくると、カイから僕の身体を受け取った。
彼らに両脇を支えられながら、僕は何とか、楽屋に戻った。
楽屋には、次の出番を待つ、バンドのメンバーが待機していた。
「お疲れ様でしたー」
「すーっげーカッコよかったっす!」
彼らは、拍手で僕を迎えてくれた。
「……」
僕は、必死の笑顔を作った…
「大丈夫ですか?」
「あーすいません、いつもこんな感じなんですよ…」
僕の代わりにハルトが答えた。
とりあえず椅子に座らされて…僕は何度も肩で大きく息を吐いた。
「どう…調子は」
ハルトが小さい声で僕に訊いた。
「…はぁ…はぁ…はい」
「1回イったから…そんなになんじゃないの?」
「…はい」
「少し休めば、動けるようになるかな…」
「……はい…」
ハルトさん…何でそんなに、僕の身体の中の事までわかってるんですか?
やっぱお母さんだからなのかな…
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