308 / 398

楽しい地元のイベント(3)

颯爽と飛び出していった僕が見たステージの上は…既に燃え盛る炎で包まれていた。 ああ… 僕がいなくても、ちゃんと見えてるじゃないか… 思いながら…僕はその、炎の中に飛び込んでいった。 僕がステージに飛び込んだ途端に、そこは燃え盛る瓦礫の山になった。 その一角で僕は… 愛するマネキンに語りかけるように、歌い始めた。 「よくあんなにシュッと入れるもんだよな…」 ハルトが呟いた。 「アウェイなんて言ってましたけど…全然大丈夫そうですね…」 頷きながら、ショウヤも言った。 そして、いつものように…いやむしろいつも以上に、調子良く1曲目を終えて… 楽しい夫婦漫才MCが始まった。 「地元のみんな…久しぶりー!」 「え、まさかもう忘れちゃった?」 「TALKING DOLL…通称トキドルー!忘れちゃった人も、初めましての人も…今日はしっかり覚えてってねー」 「忘れられないようにしてやる…」 「きゃー」 「やばっ…かっこいいー」 やっぱ絶対ホストクラブ勤まるわ… 「ついてきてねー」 客席に向かってホストサエゾウが、投げキスを送った。 歓声冷めやらぬ中…次の曲が始まった。 おちゃらけたMCからは、想像も及ばないないような…切ない螺旋… 続いて、すっかり切なくなったところへの、この上無く激しいmasquerade… ホストのMCだけでなく…観客の誰もが、その曲にも惹かれ、飲み込まれていくのが、スタージの上からも、よく分かった。 そして…次は、新曲だった。 先日、サエゾウと一緒に作った…黒いワルツ… 怪しげな3拍子のギターが、その会場を、人形たちの舞踏会の世界へと誘導させた。 ふと、僕は…客席の後ろの方から… 奇妙な視線を感じた。 何だろう… すごく不思議な感覚なんだけど… 僕らから発信する…その世界観に混ざって、そこからも何かが、じわじわと湧き出ているような気がした。 その効果も手伝って…黒いワルツの映像は、いつになく鮮やかで迫力に満ちていた。 ジャンジャン! 曲が終わって…客席は、大きな溜息からの… 拍手と歓声に包まれた。 そして、間髪を入れずに… サエゾウが、あの、例の…やばいアコースティック宵待ちのイントロを弾き始めた。 「…」 既に相当なダメージを負っていた僕に… それはまさに、トドメの一撃をぶちこんできた。 僕は、その場にバタッと膝をついてしまった。 「…」 観客の多くが息を飲む中… 僕は、吐息で喘ぐように…歌い始めた。 「うわあ…ヤバいです…」 思わず、フラついてしまったショウヤは…隣のハルトの腕を掴んでしまった。 「…あんなエロ声も出せんのか…」 ハルトは、必死に両足に力を入れて…耐えた。 そして、激しいサビに入る瞬間に、僕は渾身の力を振り絞って、立ち上がった。 会場は、真夜中の公園になり… 見上げる空には、青白い宵待ちの月が立ち昇った。 伝説に残るような、素晴らしい宵待ちだった。 曲が終わって…僕は再び、その場に膝をつくと…そのまま両手を床についてしまった。 「あーあ…」 ハルトが思わず呟いた。 「えっ?」 ショウヤは彼の方を向いた。 「やっぱ履かしといて正解だったわ」 「…っ」 顔を見合わせて…2人は、小さく笑った。 「次で最後だからねーみんな、悔いの無いように盛り上がってってねー」 「えー?」 「アンコールー」 「もっと観たいやつは、また来たらいい」 「そーゆう事ー!」 そんな強気の最後のMCも終わり… 神様のイントロが始まった。 そして僕はまた…力無く、震えながら立ち上がった。 客席が、揺れていた。 皆、手を振り上げて、身体を揺らしていた。 僕は、そんな彼らを…またも、ハメルンの笛吹きのように、ひとり残らず連れ去った。 そんな大盛り上がりの中…曲が終わった。 幕の無いステージで… 僕らは、倒れるわけにはいかなかった。 ドラムから出てきたカイに、身体を支えられながら…僕らは並んで、客席に向かって頭を下げた。 パチパチパチパチ… 鳴り止まない拍手の中、ハルトとショウヤが、ステージに近寄ってくると、カイから僕の身体を受け取った。 彼らに両脇を支えられながら、僕は何とか、楽屋に戻った。 楽屋には、次の出番を待つ、バンドのメンバーが待機していた。 「お疲れ様でしたー」 「すーっげーカッコよかったっす!」 彼らは、拍手で僕を迎えてくれた。 「……」 僕は、必死の笑顔を作った… 「大丈夫ですか?」 「あーすいません、いつもこんな感じなんですよ…」 僕の代わりにハルトが答えた。 とりあえず椅子に座らされて…僕は何度も肩で大きく息を吐いた。 「どう…調子は」 ハルトが小さい声で僕に訊いた。 「…はぁ…はぁ…はい」 「1回イったから…そんなになんじゃないの?」 「…はい」 「少し休めば、動けるようになるかな…」 「……はい…」 ハルトさん…何でそんなに、僕の身体の中の事までわかってるんですか? やっぱお母さんだからなのかな…

ともだちにシェアしよう!