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ウチで打上げのあと(2)

そこそこ片付けを終えたシルクは、部屋の電気を消して、僕の隣に横になった。 スースーと寝息を立てる僕の顔を見下ろして…彼は穏やかに微笑んでいた。 (今日も手酷くヤられたな…) 「…」 (ま、こんなになるくらいだから、本人的には悦かったんだろうけどな…) そして彼は…僕の首の下に腕を差し込むと、僕の頭をしっかりと抱きしめた。 (お前がいいなら…それでいい…) 心の中で言い聞かせるように呟くと… シルクは、僕を抱きしめたまま…眠りについた。 そこは…いつものLIVEのあとの打上げだった。 知らないバンドの人たちが、大勢集まっていた。 箱での打上げなんて久しぶりだな… 思いながら、僕は…あちこちに散らばっている、トキドルの皆を目で追っていた。 シルクは… ああ…あそこでアヤメさんと喋ってるのか… 彼がその場にいる事にホッとして…僕はこっちの隅っこで、ひとりで煙草を吸っていた。 しかし… ふと気が付くと…トキドルの皆が居なくなっていた。 「…!!」 もちろん、シルクの姿も無かった。 シルク…! 僕は慌てて立ち上がって、辺りを探し回った。 何で? 皆、僕を置いて帰っちゃったの!? 出口に向かうべく、僕はエレベーターに乗った。 えーと出口は… とりあえず1階だよな そう思った僕は、1階のボタンを押そうとした。 「…!?」 ボタンが…無かった。 扉の閉まったエレベーターは…勝手に動き出した。 ええっ… そして…ぐんぐん上昇していったと思うと…やがて最上階に着いてしまった。 致し方なく…僕はそこで降りた。 「…」 そこは…狭い、手すりもない屋上だった。 よくある、PVで屋上で演奏するシーンのように、ドラムセットが置いてあった。 今日はここで撮影なのかな… それにしても…あまりにも危なっかしいなー 4人立ったら誰か落っこちちゃうんじゃないか? そんな事を思いながら… 僕はおずおずと、ドラムセットに近付いていった。 「あっ…」 僕が触れるまでも無く…端に置いてあったライドシンバルが、スタンドごと崩れるように落ちていってしまった。 あー下にいる人にぶつかったら大変だ… そんな事を考えるウチに、更にフロアタムまでが、ぐらつき始めた。 あああ…また落ちちゃう 僕は慌てて、その縁に手をかけた。 …と、僕はバランスを崩して…そのままフロアタムに引っ張られてしまった。 「…っ」 「うわああーーーっ!!」 僕はまた、身体をビクッと震わせながら飛び起きた。 「…ん」 そんな僕の声で…シルクも目を覚ましてしまった。 「…はぁ…はぁ…」 「…何…また、夢…?」 肩で息を上げる僕を横目に見て、シルクが言った。 僕はシルクの方を向いた。 「…また、落ちる夢…見ちゃった」 「…」 シルクは…僕の肩に手をかけて引き寄せると、自分の上に覆い被さった僕を、しっかりと抱きしめた。 「大丈夫…」 「…」 「俺がいる…」 「…うん」 僕は縋り付くように、両手足を彼の身体に絡ませた。 シルク… この腕の中は、こんなにも安心感に満ち溢れてるのに…何であんな変な夢ばっかりみるんだろうな… 「…」 「サエに虐められ過ぎたか…」 見透かしたようにシルクが言った。 「あはは…そうかも…」 僕は顔を上げて、シルクの顔を見ながら呟いた。 「最近…ちょっと酷過ぎる気がする…」 「…でも、そーいうの嫌いじゃないんだろ?」 「…ん、まあ…」 「お前が喜ぶから、皆エスカレートするんじゃん」 「…そうなの…かな」 「全然、俺まで回って来ない」 「ふふっ…」 僕は、彼に顔を近付けながら続けた。 「でも…そのおかげで…こうやってシルクと2人になれるから…いいのかな」 「…」 シルクはそれを聞いて…でも全く動じる事もなく、僕の顎にそっと触れながら言った。 「まーた俺の事大好きって顔になってる…」 「だって…大好きだもん」 即答しながら…僕は自分から、彼のくちびるに自分のくちびるを押し付けた。 「…ん…」 シルクは…しょうがないなーっていう顔をしながらも、僕の頭を抱きしめながら、僕の口に舌を差し込んできた。 「んんっ…ん…」 たまにスッと離れては、また舌を絡ませ合ったりしながら…僕らはまるで恋人同士のように、何度も何度も、くちびるを重ねた。 あまりに心地良いその口付けに…僕はまた、身体の芯がボーッと熱くなっていくのを感じた。 「…またスイッチ入っちゃった?」 「…ん」 ニヤッと笑う彼に向かって、僕は小さく頷いた。 「シルクと…チューするのが…いちばん気持ちいい…」 僕は顔を赤らめて…伏せ目がちに言った。 それを聞いたシルクは、甘く囁くように続けた。 「チューだけ…?」 「…」 思わず黙ってしまった僕に向かって、 彼は諦めたような表情で続けた。 「そーだよな…お前、ヤるのは2人より…大勢の方が好きなんだもんなー」 「……」 僕は残念ながら… そこで何も言い返せなかった…

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