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光鬱レコーディング(1)

それから1週間後… 僕はまた、アヤメの家の近くのスタジオに来ていた。 その日は、光鬱の…先日のLIVEでもやった6曲の、歌録りを予定していた。 アヤメは、パソコンやらマイクやらの機材を、サクサクとセッティングしていった。 元々、オケに合わせて演奏するスタイルなので、LIVEに使ういつものオケに、アヤメのギターと、コーラスを録音して、ミックスも終えた音源が…既に出来上がっていた。 あとは本当に…僕の歌さえ録れば完成なのだ。 なので、いつぞやの…2日に渡る、消耗度激しいレコーディングのような事にはならない筈だった。 「じゃあ…ちょっと試しに流してみようか…」 「はい…」 僕は、手渡されたヘッドホンを装着すると…聞こえてくる音源に合わせて、歌ってみた。 同じくヘッドホンを着けたアヤメは、真剣な横顔で、音量やら何やらを調節していった。 「…悪くないんだけどな…」 とりあえず1曲流し終わって…アヤメは呟いた。 「ハイボール缶…あるからね、飲んでおこうか」 「…あ、はい…」 アヤメに手渡されたハイボール缶をプシュッと開けると…僕らは小さく乾杯した。 ゴクゴクとそれを飲んでから…彼は続けた。 「とりあえず…1回録ってみよう」 「はい…」 そして再び…同じ曲が流れた。 僕は、本番を意識して…丁寧に歌った。 「…とても、悪くは無いんだけどなー」 再びアヤメが呟いた。 「……」 それはおそらく、アレですかねー スイッチがどうとか、そういう問題なんでしょうね… 心の中で思いながら… 僕はそれを言い出す事を、少し躊躇っていた。 「次の曲も、いってみようか…」 「録りますか?」 「うん…一応ね」 そして次の曲も…僕は、そこそこ丁寧に、良い感じに歌い上げていった。 しかし…やっぱりアヤメの反応は同じだった。 「うーん…」 彼は考え込んでしまった。 「いったん休憩にするか…」 僕らはハイボール缶を片手に…外の喫煙所にいった。 並んで煙草を吸いながら、アヤメが訊いてきた。 「ちなみに…トキドルのレコーディングのときは、どうやって録ったの?」 「…あーえっと…」 僕は、とても言い辛い感じで…いつぞやのレコーディングの事を、やんわりと彼に語った。 「えええーっ!?…お前らって、レコーディングもそんな事しながらやってたのー!?」 「…まあ…はい…」 「なるほどねー…道理で、曲があの映像に負けてないわけだ…」 そうなんですかねー 「だったら…仕方ないな…」 アヤメは煙草を揉み消すと…僕の手を掴んで、急いでスタジオに戻った。 「良い音源を作るためだからね…しょうがない」 ニヤッと笑いながら…彼は、カバンからバンダナを取り出すと…僕の目を覆うように巻いた。 「…っ」 そして、両腕を背中に回させると、同じようにバンダナでしっかりと縛り付けた。 「…!!」 ほどなく…視界を塞がれた僕のくちびるに…生温かいものが重なってきた。 まーそれが…アヤメのくちびるである事は、言わずもがなだったのだが… 「…ん…んっ…」 グイグイと舌を突っ込まれて…僕は思わずビクビクと震えてしまった。 ゆっくり口を離れた彼は…僕の胸元をスーッと撫でながら、いやらしく囁いた。 「もっと…した方がいいのかな…?」 「…っ」 僕は、ブンブンと首を横に振った。 「よし…これで…いってみるか…」 言いながらアヤメは、僕にヘッドホンを被せると…マイクの前に立たせた。 「歌ってみて」 そしてまた…曲が、流れてきた。 その行為のおかげで… めでたく確実に…僕のスイッチはオンされた。 塞がれた視界には、曲の景色が鮮やかに広がり…激しく口付けられた身体は火照り…両手の自由を奪われた事で、より一層、昂り続けた。 僕は、身悶えるように…歌い上げていった。 「うん…うん…全然いい!」 1曲終えて…アヤメは、興奮したように言った。 そして彼はハイボール缶を口に含むと…再び僕に口付けて、それを僕の口に流し込んできた。 「…んんっ…」 僕はまた震えながら…それをゴクンと飲み干した。 「どんどんいこう…」 そんな感じで…たまに口付けられながらの…僕は夢中で、次々と歌い上げていった。 当然…身体はどんどん、熱くなっていった。 膝を折りそうになりながらも…それを必死に堪える事で、むしろ歌に魂が篭っていくような気がした。 まるでLIVE本番さながらの怒涛のテンションで…やがて、6曲が終わった。 「うん…ものすごく良かった…」 いつの間にか…僕の歌を聞きながら、マウスを操作するアヤメの息も上がっていた。 彼は、PCの画面を見ながら呟くように続けた。 「もう、録り直す必要無いな…これで十分だ」 ドサッ… その音に驚いて、アヤメは僕の方を振り向いた。 「…っ」 僕は、完全にその場に崩れ落ちていた。 そんな僕の様子を見て…彼はふふっと笑った。 「ま、録り直すなんて…確実に無理だけどな…」

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