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光鬱描画大会

「初めまして…よろしくお願いします」 「こちらこそー」 アヤメとレンは、お互いによそよそしく頭を下げた。 「カッコいいねー…アヤメさんだっけ?」 「はい」 「カオルもいいけど、2人並ぶと、もの凄い絵になるわーめっちゃヤル気出てきたー」 親しげに、すぐに馴れ馴れしく話すレンとは裏腹に…アヤメは、未だ警戒心を隠せない表情をしていた。 そんな事は全く気にせず…レンは、僕とアヤメを、並んで座らせた。 「とりあえずスケッチさせてね…」 そう言うと、彼はすぐにスケッチブックを取り出して…サラサラと鉛筆を滑らせていった。 「そんなに硬くならなくて大丈夫だからねー」 レンがアヤメに向かって言った。 アヤメの方を見ると…彼は何だか、眉間に皺を寄せていた。 「アヤメさん…スゴい恐い顔になってますよ」 「えっ…あ、ああ…そうか?」 「ちょっと動いたり、喋ったりしててもいいよー」 言いながらレンは、次々と何枚も描いているようだった。 「アヤメさん…こういうの初めてですか?」 「そりゃそうだ」 「でも…KYで、アー写撮ったりしてたんじゃないですか?」 「まあ…そうだけど…」 彼は少し口籠もりながら続けた。 「勝手が違うからな…それに…」 「?」 「あ、いや…何でもない」 ポカンと彼を見つめる僕から目を逸らして…アヤメはまたも眉毛を歪ませながら、レンを見た。 「だいたい輪郭は掴んだから…今度はポーズとってもらってもいいかな」 「えっ…どんな風にしたらいいんですか?」 「アー写とか、撮った事あるんでしょ?…そんときみたいに2人でかっこ付けてみてよ」 「…」 僕とアヤメは顔を見合わせた。 「あのオタクのカメラだと思えばいいんじゃない?」 アヤメがふふっと笑いながら行った。 「…なるほど」 そして僕らは、何となく2人並んでカッコつけてみた。 「もっとくっ付いたらいいのにー」 「…っ」 「じゃあ遠慮なく」 アヤメはニヤッと笑うと…僕の肩を抱いて、自分の方に引き寄せた。 「…あっ」 そのまま彼は、片腕を僕の首に回すと…僕の顔に自分の顔を近付けた。 そして、睨むように…レンに視線を向けた。 「…ああ…とても良い感じだね…」 彼は、そんなアヤメの視線を、サラッと交わすように呟くと…再び鉛筆を走らせながら続けた。 「もしかして…君たち、つき合ってんのー?」 「…!…違います!!」 僕は、顔を赤らめて即答した。 「…」 アヤメは黙っていた。 「ホント?…スゴくお似合いに見えるけどなー」 「…違いますってば!」 「サエに怒られるか…」 「そうですよ!!」 そんな感じで、幾つかのポーズを描いた後に…レンは言った。 「だいたい感じは掴めた…お疲れ様、ありがとう」 「ふうー」 僕は、いつものように、大きく溜息をついた。 アヤメも、ホッとした表情をしていた。 「この後ゆっくり…2〜3パターン描いてみるね…衣装はどんな感じで、どんな色がいいの?」 「俺は黒っぽい暗い色で…コイツは白っぽい眩しい色がいいんですけど」 アヤメがシュッと答えた。 「なるほどね…光鬱って言うんだっけね、君たち…まさにバンド名そのままのイメージね」 「何なら…モノクロでも…大丈夫です。サラッと描いて頂ければ」 出来る事なら、あまり面倒をかけたくない感じで、アヤメが続けた。 「折角こんな良いモデルなのに…色つけられないなんて…俺が耐えられない」 「…」 「描けたらすぐに送るから」 「わかりました…ありがとうございます…ちなみに、おいくらになりますか?」 アヤメがまるでサラリーマンの営業のように訊いた。 「あーそうだなー」 レンは、しばらく考えて…言った。 「いいよ、カオルにはいつもお世話になってるし」 「いや…支払います」 「んーやっぱいい…これからもお世話になるから」 だからー そういう事言われたくないからこそ、ちゃんとキッチリ払いたいんじゃん! 恐らくアヤメは、そう思っていたに違いない… 「CD完成したら、俺の事も宣伝してー」 「それはもちろんです」 「あとあれだ…君もサエと知り合いなの?」 レンは、アヤメに言った。 「はい…一応知ってますけど?」 「じゃあ、頼むから…カオルがモデルの仕事やってる事、サエには黙っといてー」 「そんなの…いずれバレると思いますけど?」 「ま、いずれはバレてもいいんだけどね…敢えては言わないどいて欲しいなーって…」 「どうしてですか?」 「んー」 レンは、ふざけたように…肩をすくめながら続けた。 「だって、バレたら絶対ダメって言われちゃうでしょ…少しでも長く続けて欲しいんだもんー」 アヤメは…若干呆れた様な表情で答えた。 「…分かりました…無駄な努力だとは思いますけど、俺からは何も言わないでおきます」 「サンキューね…それでいいよ」 まー確かに無駄な努力だよな… っていうか…もうここまで黙っちゃってた時点で、色々バレた暁には…また相当にお仕置きされるのは、必須だろうな… 「はぁー」 そんな事を思いながら…僕はうっかり、大きな溜息をついてしまった。 そんな僕を見て…アヤメがクスッと笑った。 「…な、なんですか?」 「大変だな…」 「何が?」 「どうせ、バレたときの事考えてんだろ?」 「…っ」 当然…僕は何も言い返せなかった…

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