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あっちの2人の知り合い(2)

「いやー楽しかったー」 他のお客さんが居ないのをいい事に、割と何曲も立て続けに演奏し終わって…すっかり満喫した彼らは、カウンターに戻って、改めて乾杯した。 「ありがとうございました」 「お疲れ様ー」 丁度そこへ、違うお客さんが入ってきた。 「いらっしゃいませ」 カイは、そっちのお客さんの方へ行ってしまった。 サエゾウは、煙草に火を付けながら…隣に座ったユウマに言った。 「ユウマさん、全然衰えてないですよねーホントにもったいないなー」 「あははは…ぶっちゃけ自分でもビックリしたわ」 「ギター弾くの、そんなに久しぶりなんですかー?」 「そうだな…もう2〜3年は触ってない」 「えええー!…そんなにー!?」 「うーん…何か、スポーンとヤル気無くなっちゃったからねー」 「…そんなもんなんですか?…ギターの無い生活なんて…俺は考えられないけどなー」 そう呟くサエゾウの横顔を…ユウマは微笑みながら、少し寂しそうな表情で見つめた。 「俺は…もしトキドル無くなっちゃったら、死んじゃうだろうなー」 「…」 そんな風に続けたサエゾウの頭を…ユウマがポンポンと撫でた。 「お前は、ちっとも変わって無いな…」 「…」 「そういう刹那的な所も…」 「…っ」 それからユウマは、カイの手が空いたのを見計らって言った。 「カイーおかわりちょうだい」 「はーい」 「カイと、サエにも1杯ずつね」 「マジですか?ご馳走様です」 そして3人は、また乾杯した。 楽しい夜だった。 懐かしい思い出話に花を咲かせ…次々とやってくるお客さん達と、色んなジャンルの曲をセッションした。 久しぶりにギターを弾くと言ったユウマは、どんな曲でも沙汰なく弾いてのけた。 「ユウマさん…楽しそうだねー」 「ああ…やっぱ、もったいないよな」 そんな彼を見て、カイとサエゾウは言い合った。 夜も更けて…そろそろ他のお客さんが、続々と帰り始めた。 ユウマは、旧友との再会と久しぶりの演奏を楽しんで…相当酔っ払っているように見えた。 「ユウマさん、終電大丈夫ですか?」 カイが訊いた。 「あーヤバいかもー」 「じゃあそろそろ帰りましょうー」 「サエも帰る?」 「うん…駅まで送ってきますよー」 「…そうか…わかった…」 とても名残惜しそうに…ユウマは帰り支度をして、会計を済ませた。 「また来てくださいね」 「ああ…そうする」 「じゃあサエ…ユウマさんよろしくね」 「わかったー」 そして… 少し心配そうなカイに見送られて、2人は店を出た。 「大丈夫ですかー飲み過ぎですよー」 フラつく足取りの…ユウマの腕を支えながら、サエゾウは言った。 「あー今何時ー?」 「えーと…」 サエゾウは、しょうがないなーっていう感じで、スマホを取り出して時間を見た。 「12時…もうすぐ半ですねー」 「あー終電無いわ」 「マジですかー!?」 2人はその場に立ち止まった。 「…どうしますか…」 「うーん…」 「ウチ…来ますかー?」 「…いーの?」 「ちょっと歩きますけどー」 「連れてってー」 「…もうー酔っ払いはしょうがないなー」 しょうがないなーと思いながらも、クスクスと笑いながら…サエゾウはそのまま、彼の腕を支えて引っ張りながら、自分の家に向かって歩いていった。 途中…宵待ちの公園に差し掛かった。 「ちょっと休憩しましょうー」 そう言ってサエゾウは…公園の中にユウマを連れて行くと…その辺のベンチに座らせた。 「ふうー」 ユウマは大きな溜息をついた。 「気持ち悪いですかー?」 「…いや…気持ちは、すっげーいい…」 「だったらよかったわー」 そう言ってサエゾウは… いつぞやのように、夜空を見上げた。 月は出ていなかった。 「PV…見てくれたって言ってましたよねー」 「うん」 「宵待ちの月の…って曲…わかります?」 「ああ…」 ユウマは、ハッとしたように続けた。 「あっ…アレってもしかして…この公園か?」 「ピンポーン」 「…そうか…」 呟きながら…彼は改めて、その園内を見渡した。 「ここで…サエが作ったのか…」 「えっ…俺の曲って…わかりましたー?」 「そりゃわかるさ」 「…っ」 「確か…4曲出てるよね…サエの曲は、それだけだったから…すげー印象に残ってる…」 「…」 そんな風に言われて…サエゾウは、たまらない気持ちになった。 「ユウマさん…ありがとうございますー」 彼は、若干ウルウルしながら続けた。 「すげー嬉しい…」 「…」 ユウマは…そんなサエゾウの肩に… そっと自分の手を回した。 「ホントに…変わってないのな…」 「…」 「あの頃…俺が好きだったサエ…そのまんま」 「…!?」 急にそんな事を言われて、驚いて目を丸くしたサエゾウの…彼は、顔を両手で包むように押さえた。 「…閉じ込めて…忘れてたのに…」 「…っ」 「思い出したら、溢れてきちゃった…」 言いながらユウマは…半ば無理矢理に、 サエゾウのくちびるを…自分の口で塞いだ。

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