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あっちの2人再び(1)

その日…深夜に家に帰ったカイの元に、サエゾウからのLINEが送られてきた。  カイどうしよう…  ユウマさんとやっちゃった あーやっぱりか… 思いながら、カイは冷静に…返信した。    別にいいじゃん 「…」 そして続けた。  何でそうなった?  終電無いってゆーからウチきた  今ユウマさんいるの?  寝てるー 「はあー」 カイは大きく溜息をつくと…自分のベッドに寝転んだ。  明日ゆっくり聞いてやるから  今日はもう寝ろ  わかったー そして彼は、スマホを投げ出した。 (最初から、そのつもりだったのかもしれないな…) そんな事を、ふと思いながら…カイは目を閉じた。 それでもサエゾウは、自分を頼ってくれた。 それだけで…彼は十分、満足だった。 (サエの心は…ちゃんとこっちにあるって事だよな…) シルクと話した事を思い出しながら… カイはひとりでふふっと笑った。 それからカイは、再びスマホを手に取ると…シルクにLINEを送った。  シルクの予想通りだってさ すぐに既読がついて、返信がきた。  ちゃんと上書きしてやれよ 「…」  お前に言われたくないわ カイは、そう返信すると… ニヤッと笑って、今度は僕にLINEを送った。  レコーディング順調?  お前と会えなくてみんな淋しがってる  俺もだけど なかなか既読がつかなかった。 (もう寝てんのか…) 思いながらカイは、再びスマホを置いた。 (大丈夫だ…たぶん) そう自分に言い聞かせながら…カイは目を閉じた。 翌日の夜…サエゾウがバイトから帰る時間を見計らって、カイは、サエゾウの家に行った。 「お疲れ…」 「んー」 カイは、部屋に上がると…買ってきたハイボール缶を、バタバタとキッチンの冷蔵庫に入れた。 「腹減ってる?」 「減ってるー」 「何か出前とるか」 「とるー」 そして彼らは…というかサエゾウは…前にもお世話になった中華屋さんに、唐揚げやら…唐揚げやら…炒飯やらを頼んだ。 ほどなく届いた山盛り中華メニューを囲んで、彼らは乾杯した。 「またいっぱい頼んだなー食えんのか?」 「食えるー」 腹減りサエゾウは、すぐにがっついた。 もりもり食べ進める彼に向かって…カイは落ち着いた口調で切り出した。 「そんで…ユウマさんと…どうだったの?」 「んー」 サエゾウは、もぐもぐしながら答えた。 「何かね、高校ん時、俺の事好きだったらしいー」 「ほー」 そしてサエゾウは…店を出てからの一部始終を、カイに語って聞かせた。 「宵待ちがお前の曲だって…よくわかったな」 「ねー流石だよねー」 「それでうっかりほだされたワケか」 「そーそー…そーなんだよー」 「しかもお前…基本的にヤるの好きだしな…」 「…そーなんだよ〜」 カイは、ハイボール缶のおかわりを取りに立った。 彼は、2本持ってきたうちの1本を、サエゾウの頬にペタッとあてながら続けた。 「…で、何で…どうしようって思ったの?」 「うーん…何かさー」 一瞬、冷たさにビクッとしたサエゾウは…それを、カイの手から奪い取りながら続けた。 「ユウマさんが…めっちゃ本気っぽかったんだよねー」 「そらそうだろ」 「俺は…全然なのにさー」 「…」 それを聞いたカイは… 心の中で、大きな安堵の溜息をついた。 「全く…しょうがねーな…」 「あーもう…悪い事しちゃったー」 「別にいいんじゃん?お前のファン増えたって思えばいいじゃん」 「そーだけどー」 「つき合って欲しいとか…言われたの?」 「いや…そうは言われてないけど…」 サエゾウは…2本めの缶をプシュッと開けた。 「あーでもそういえば、カイとヤってんのか的な事は訊かれたなー」 「で、何て答えた」 「うんってー」 「…」 それを聞いて、更にホッとしたカイは…サエゾウの頭を撫でながら続けた。 「じゃあアレだ…俺とつき合ってるって事にしとけばいいじゃん」 「…うっかり浮気しちゃったってテイでー?」 「うん」 「カイには言わないでーって言っとけば?」 「あはははっ…それいいかもー」 ようやく、声を上げて笑ったサエゾウを見て…カイは少したまらない気持ちになった。 そして、畳み掛けるように…言った。 「別に、何にも気にする事は無いよ…もしそれで、ユウマさんがこの先お前につき纏う事があれば、俺が追い払ってやるし…」 「…」 「それともアレか…お前も、以前のカオルみたいに、他所のヤツとヤった事を、皆に申し訳ないとか…思っちゃってる?」 「…んー少し…」 サエゾウは、目を伏せて顔を赤らめた。 「カオルはあの後も、シキとかアヤメとヤってんのに?」 「…」 サエゾウはゆっくり顔を上げた。 「…それもそっかー」 「そうだろ」 「何も気にする事ないのかー」 「ああ」 サエゾウは、心底ホッとしたような表情で…ハイボール缶をゴクゴクと飲み干した。 「まー食え」 「うん」 「食い終わったら…上書きしてやる」 「マジでー?」 そしてサエゾウは…唐揚げやら…唐揚げやらを…心置きなく食い倒した。

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