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ショウヤ個展(1)
トキドルがしばし休業中なのを見計らって…
ショウヤは、前々からの野望だった『トキドルだけの個展』の準備を…黙々と進めていた。
会場は…先日、ボクらの神様の撮影に使った…ショウヤ家所有の撮影スタジオのチャペル階を…ちゃっかり家族特典で借り切っていた。
お気に入りの写真を、山ほど用意した。
その日は、ハルトも出動しての…それらを会場に運び込んで、実際に展示していく予定になっていた。
「どんだけ量あるんだよ、これ…」
ショウヤの部屋に…大小サイズも様々な写真が、山のように積まれているのを見て、ハルトは果てしない気持ちになった…
「どんだけ金と手間が掛かってんだか…」
「これでも相当厳選したんです…」
ハルトは大きく溜息をつくと…諦めたように、ふふっと笑った。
「ま、しょうがないよな…頑張るか…」
「…すいません」
そして2人が、それらを車に積み込んでいると…1階から、騒ぎを聞きつけた、中年の男性が出てきた。
「あーお疲れさん」
「あ、おはようございます」
ショウヤの父親…その写真館の店主だった。
「お世話になってます…いつもスタジオ使わせて頂いて、ありがとうございます」
ハルトは、丁寧に彼に挨拶した。
「こちらこそ…いつも付き合わさせて悪いね…こいつ、ホントに面倒臭いだろ?」
「あはははっ…」
そして、ショウヤの親父さんも手伝っての…大量の写真の積込みが終わった。
「ありがとう…」
ショウヤはボソッと呟くように言うと、プイッと運転席に乗り込んだ。
「いつもこんな調子なんだ」
親父さんは、肩をすくめながら…小さい声でハルトに言った。
「陰ながら応援してっから…まあ、頑張ってよ」
「ありがとうございます」
ハルトは再び、深く頭を下げると…助手席に乗り込んだ。
発車するワゴンを、
親父さんは…手を振って見送ってくれた。
手を振り返しながら、ハルトは言った。
「いい親父さんだな…」
「…うん」
前を向いて、表情を変えないまま…そう言ったショウヤの横顔を…ハルトは穏やかに微笑みながら見つめた。
ほどなく車は会場前に着いた。
「ショウヤさん、おはようございます」
2人が荷物を下ろしていると…今度はスタジオの元々のスタッフの男性が2人出てきた。
「おはようございます…よろしくお願いします」
ショウヤは、親父さんのときより、だいぶ愛想良く挨拶していた。
それを見て、ハルトはまたクスッと笑った。
彼らにも手伝ってもらっての、無事、会場への搬入が終わった。
何台ものパーテーションも運び込まれていた。
「ありがとうございました」
ショウヤは2人に頭を下げた。
「他に手伝う事はありますか?」
「とりあえず、後は僕らで大丈夫と思います」
「わかりました…何かあったら、すぐに声かけてくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
「…手伝ってもらわなくて大丈夫なの?」
彼らがエレベーターに乗り込んでいくのを見送ってから、ハルトが言った。
「うーん…実は、まだレイアウトが、ちゃんと定まって無いんですよ…」
「…?」
「現場で様子見ながら考えようと思ってたので…だから、サクサク指示出せなくて、逆に迷惑かけちゃうと思うので…」
「なるほどね…」
「あ、もちろんハルトさんは…ハルトさんのコーナーに集中してくれて大丈夫ですからね!」
今回は、いつぞやのミーティングで提案していた…ハルトのリカちゃん人形もどきでの、トキドルフィギュアコーナーも、実現する事になっていた。
「ありがとう、わかった…もし手が必要になったら、遠慮なく呼んで」
「はい、そうします…」
そして2人は…それぞれの仕込みに取り掛かった。
スピーカーも持ち込んで…その場には、トキドルのPVとLIVEのYouTubeが…そこそこの音量で、ずっと流されていた。
2人はたまに曲を口ずさみながら、とても楽しそうに作業を進めていった。
「うーん…字が下手くそなんだよな…」
人形に添える説明を、試し書きしながら…
ハルトが悩ましそうに呟いた。
「あ、テプラ的なの持ってきましたから…よかったら使ってください」
それを聞いたショウヤは、スッと答えた。
「マジか…!」
ハルトは、ショウヤが指差したカラーボックスの中を探った。
テプラの機械と一緒に、既に印刷されて、ラミネート加工されたポップ的なものが、いっぱい出てきた。
「すげーな…これ全部作ったのか…」
いつのLIVEだとか、どの曲のPV撮影風景だとか…おそらくコーナーに貼るつもりで作ったんだろう…
「へえーこんなフォントがあるのか…」
手書き風の…読みやすくて割と可愛い書体で書かれて…ゴシック調に色も塗られて仕上げられた、それら数々を見て…ハルトは感心しながら言った。
「あー…それは…僕が書きました…」
「えええっ!?」
ハルトは飛び上がって驚いた。
「お前…こんな可愛い字書けんの!?!?」
「…んーまあ…フツーですよ」
「…」
フツーじゃねえ
この字と言い、この丁寧な仕上がりと言い…
こいつ…やっぱ、只者じゃないな
スーパーの値札POP係か…
保育園の先生でも食べていけそうだな。
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