332 / 398

ショウヤ個展(1)

トキドルがしばし休業中なのを見計らって… ショウヤは、前々からの野望だった『トキドルだけの個展』の準備を…黙々と進めていた。 会場は…先日、ボクらの神様の撮影に使った…ショウヤ家所有の撮影スタジオのチャペル階を…ちゃっかり家族特典で借り切っていた。 お気に入りの写真を、山ほど用意した。 その日は、ハルトも出動しての…それらを会場に運び込んで、実際に展示していく予定になっていた。 「どんだけ量あるんだよ、これ…」 ショウヤの部屋に…大小サイズも様々な写真が、山のように積まれているのを見て、ハルトは果てしない気持ちになった… 「どんだけ金と手間が掛かってんだか…」 「これでも相当厳選したんです…」 ハルトは大きく溜息をつくと…諦めたように、ふふっと笑った。 「ま、しょうがないよな…頑張るか…」 「…すいません」 そして2人が、それらを車に積み込んでいると…1階から、騒ぎを聞きつけた、中年の男性が出てきた。 「あーお疲れさん」 「あ、おはようございます」 ショウヤの父親…その写真館の店主だった。 「お世話になってます…いつもスタジオ使わせて頂いて、ありがとうございます」 ハルトは、丁寧に彼に挨拶した。 「こちらこそ…いつも付き合わさせて悪いね…こいつ、ホントに面倒臭いだろ?」 「あはははっ…」 そして、ショウヤの親父さんも手伝っての…大量の写真の積込みが終わった。 「ありがとう…」 ショウヤはボソッと呟くように言うと、プイッと運転席に乗り込んだ。 「いつもこんな調子なんだ」 親父さんは、肩をすくめながら…小さい声でハルトに言った。 「陰ながら応援してっから…まあ、頑張ってよ」 「ありがとうございます」 ハルトは再び、深く頭を下げると…助手席に乗り込んだ。 発車するワゴンを、 親父さんは…手を振って見送ってくれた。 手を振り返しながら、ハルトは言った。 「いい親父さんだな…」 「…うん」 前を向いて、表情を変えないまま…そう言ったショウヤの横顔を…ハルトは穏やかに微笑みながら見つめた。 ほどなく車は会場前に着いた。 「ショウヤさん、おはようございます」 2人が荷物を下ろしていると…今度はスタジオの元々のスタッフの男性が2人出てきた。 「おはようございます…よろしくお願いします」 ショウヤは、親父さんのときより、だいぶ愛想良く挨拶していた。 それを見て、ハルトはまたクスッと笑った。 彼らにも手伝ってもらっての、無事、会場への搬入が終わった。 何台ものパーテーションも運び込まれていた。 「ありがとうございました」 ショウヤは2人に頭を下げた。 「他に手伝う事はありますか?」 「とりあえず、後は僕らで大丈夫と思います」 「わかりました…何かあったら、すぐに声かけてくださいね」 「はい、よろしくお願いします」 「…手伝ってもらわなくて大丈夫なの?」 彼らがエレベーターに乗り込んでいくのを見送ってから、ハルトが言った。 「うーん…実は、まだレイアウトが、ちゃんと定まって無いんですよ…」 「…?」 「現場で様子見ながら考えようと思ってたので…だから、サクサク指示出せなくて、逆に迷惑かけちゃうと思うので…」 「なるほどね…」 「あ、もちろんハルトさんは…ハルトさんのコーナーに集中してくれて大丈夫ですからね!」 今回は、いつぞやのミーティングで提案していた…ハルトのリカちゃん人形もどきでの、トキドルフィギュアコーナーも、実現する事になっていた。 「ありがとう、わかった…もし手が必要になったら、遠慮なく呼んで」 「はい、そうします…」 そして2人は…それぞれの仕込みに取り掛かった。 スピーカーも持ち込んで…その場には、トキドルのPVとLIVEのYouTubeが…そこそこの音量で、ずっと流されていた。 2人はたまに曲を口ずさみながら、とても楽しそうに作業を進めていった。 「うーん…字が下手くそなんだよな…」 人形に添える説明を、試し書きしながら… ハルトが悩ましそうに呟いた。 「あ、テプラ的なの持ってきましたから…よかったら使ってください」 それを聞いたショウヤは、スッと答えた。 「マジか…!」 ハルトは、ショウヤが指差したカラーボックスの中を探った。 テプラの機械と一緒に、既に印刷されて、ラミネート加工されたポップ的なものが、いっぱい出てきた。 「すげーな…これ全部作ったのか…」 いつのLIVEだとか、どの曲のPV撮影風景だとか…おそらくコーナーに貼るつもりで作ったんだろう… 「へえーこんなフォントがあるのか…」 手書き風の…読みやすくて割と可愛い書体で書かれて…ゴシック調に色も塗られて仕上げられた、それら数々を見て…ハルトは感心しながら言った。 「あー…それは…僕が書きました…」 「えええっ!?」 ハルトは飛び上がって驚いた。 「お前…こんな可愛い字書けんの!?!?」 「…んーまあ…フツーですよ」 「…」 フツーじゃねえ この字と言い、この丁寧な仕上がりと言い… こいつ…やっぱ、只者じゃないな スーパーの値札POP係か… 保育園の先生でも食べていけそうだな。

ともだちにシェアしよう!