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高額なバイト(1)
週末空いてる?
ショウヤさんの個展行かない?
僕は、とても久しぶりに…シルクにLINEを送っていた。
既読はなかなかつかなかった。
その週末…レンに紹介された、例のマナミさんとやらの主催するらしいイベントのモデルを頼まれていた。
何となく気が進まなかった。
そして、ただただ単純に…シルクに会いたかった。
シルクと一緒に、ショウヤの個展に行くってなったら、断る口実が出来るんだけどな…
ほぼ丸1日経ってから…ようやく返信がきた。
ごめん北海道出張
来週の平日なら行ける日あるかも
「…」
そっか…仕事忙しいんだ…
僕はひとりで、大きな溜息をついた。
わかった 来週また声かけてみるね
気をつけていってらっしゃい
そう返して、僕は…布団に仰向けに転がった。
またも既読はすぐにはつかなかった。
よっぽど忙しいんだな…
僕も、頑張って稼がないとな…
そう思い直して、僕は再びスマホをタップした。
終わって…来週また誘ってみよう
もう少し我慢すれば、会えるんだもんな…
その次の週末には、久しぶりのトキドルのリハが決まっていた事もあり…僕は気を取り直して、レンに…その例のモデルを引き受ける旨の返事を送った。
◇
その夜…僕は、レンに指定されたマナミの家に行った。
都心の、まさに高級マンションの一室だった。
「カオル!…よく来てくれたね、嬉しいよ」
「…よろしくお願いします」
彼に誘われて、僕は部屋に入った。
アトリエと言うか…普通の、ただっ広いリビングに…僕は通された。まだ、他には誰も来ていなかった。
「まだ少し時間あるから…何か飲む?」
そのリビングには、バーのようなドリンクカウンターがあった。
マナミはそこへ入って、グラスを用意した。
「じゃあ…ハイボール…お願いします」
「オッケー」
彼はすぐに、慣れた手付きでハイボールを作ると…自分の分のロックと一緒にカウンターの上に置いた。
「飲み放題だからね、あるものでよければ、いくらでもおかわりしてね」
「…ありがとうございます」
そして僕らは、小さく乾杯した。
「そうだ…YouTubeを観ながら、君たちの事、少しスケッチさせてもらったんだ…見る?」
「あ、はい…」
マナミは、リビングの隅っこの棚から、スケッチブックを取り出すと…それを僕に手渡した。
「…」
僕はそれを開いてみた。
「うわあーっ」
そこには、まさにYouTubeの中に出て来る、トキドルのメンバー達が描かれていた。
レンとはまた違う、繊細なタッチのその絵に…僕はどんどん惹き込まれていった。
ペラペラとページをめくり…次々と見進めていった。
これは…あの曲の…あの場面だ…
それが僕には、とてもよく分かった。
白サエと黒サエ…
残酷そうなカイ…
着崩れて放置される僕…
何気ないメンバーの表情が、とても美しく描かれていて…僕は嬉しくなってしまった。
「…!」
真夜庭の…水飛沫を浴びる、シルクの絵が出てきた。
例の、上半身裸の…
シルク…
僕が思わず、そのページで止まってしまったのを見て、マナミがチラッと覗き込んだ。
「それ、良い表情だよねー」
「…」
「他の曲だと、悪いヤツっぽいのに…そのときだけは、妙に爽やかなんだよな…」
「あはははっ…マナミさん、凄くよく観てくれてるんですね…」
「だって、すーっごく良いんだもん」
「…」
僕は本当に嬉しかった。
そんな風に言われた事も…そして、僕の大事なメンバー達を、こんなに理解して、こんなに綺麗に描いてくれた事も…
「あ、これ…今日の基本の謝礼ね」
言いながらマナミは、僕に茶封筒を渡した。
「ちゃんと確認して」
「…」
言われて僕は、その中身をチラッと見た。
「…!!!」
どう見ても…1万円札が…3枚は入っていた。
「こんなに!?」
「他の人にもその金額でやってもらってるからー」
「すいません…ありがとうございます」
僕は恐縮しながらも…
それを大事にカバンにしまった。
「でね、今日の衣装なんだけど…」
「えっ…」
「その、宵待ちのカオルがすごく綺麗だったから…似たようなのを用意してみたんだけど…」
言いながら彼は、畳んだ浴衣を僕に差し出した。
「…」
僕はそれを受け取って、広げてみた。
白地に赤紫の薔薇の模様の…以前、サエゾウんちで着せられたのと同じ、温泉宿なんかに置いてあるタイプの浴衣だった。
「ちょっと着てみてくれない?」
「…はい…」
謝礼も受け取ってしまった事だし…それを拒むわけにもいかなかった。
僕はすごすごと、着ているシャツを脱いで、その浴衣を羽織ってみた。
「下も脱いでね」
「あ、はい…」
「出来れば…下着も脱いでおいて欲しいな」
「えっ…」
「だって、足広げたとき…下着が見えちゃったら…ちょっとヤバいじゃない?」
「あー…そういうもんですか??」
いや、下着じゃないものが見えちゃう方が…もっとヤバいんじゃないの?
釈然としない気持ちに駆られながらも…
僕はもう…従うしか無かった。
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