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個展のあとで(1)

「この後どうする…家に帰るか?」 「あー…」 僕は口籠った。 「忘れないうちに曲作りたいんじゃないの?」 「…」 僕は、スマホを取り出して…メモした歌詞を見た。 「…」 容易に、曲を思い出せた。 「大丈夫…すぐじゃなくてもいいよ」 僕は、スマホをポケットにしまいながら言った。 曲を作るよりも… このまま、シルクと一緒にいたかった。 「じゃあ、何か買い物して…一緒に食べるか」 「うん…是非、そうして欲しい」 「予想外に消耗したしな…」 「…っ」 僕は思わず顔を赤くした。 せっかくここまで来たから…って事で、僕らはそこから歩いて行ける、大きな駅のデパ地下に足を伸ばした。 輸入食品の店や、近所のスーパーとは品揃えの桁が違う百貨店の食品売り場をウロウロと散策してから…結局、帰り道の、いつも行くスーパーで、僕らは買い物をした。 「…」 シルクはいつものように、黙って熟考しながら、売場を巡っていた。 そんな彼の後ろを、いつものようについて歩く僕にとって…それは楽しくてたまらない時間だった。 と、そのとき…ポタッと何かが下に垂れた。 えっ… 何だろう…と思って下を見た途端に…またもポタポタと、床に血が垂れていった。 鼻血!? 僕は慌てて両手で鼻と口を覆うと、前を進むシルクに駆け寄った。 振り向いた彼は、僕の様相を見て驚いた。 「どうした…鼻血か?」 「…ん」 僕は泣きそうな表情で頷いた。 覆った両手の中で…鼻から流れた血が口の中に入ってくるのが分かった。 シルクは買い物カゴをその場に置くと、僕の肩を抱いて、急いで店の外に連れ出した。 そして…店の裏のあまり人のいない場所にいくと…僕をその場に座らせた。 そして彼は、いつものカッコいいカバンの中から、ポケットティッシュと黒いハンドタオルを取り出して、僕に差し出した。 「…ごめん…」 言いながら…それを受け取ろうと口から離した手には、ベッタリと血が付いていた。 それを見て…僕は気持ち的に、サーッと血の気が引いてしまった。 「急いで会計してくるから、ここで待ってろ」 「…うん」 シルクは早足で、店の中へと戻っていった。 僕は、彼にもらったポケットティッシュの中身を全部一気に取り出して、鼻と口の周りを拭いた。 それでもまだ、血が止まらなかった。 あっという間に、ティッシュが全部、赤く染まってしまった。 致し方なく僕は…その黒いハンドタオルで、鼻と口を覆った。 今度、新しいのを買って返さなきゃ… そんな事を思っていたところへ、シルクが戻ってきた。 「あーあー」 握りしめた、赤いティッシュのゴミを見て…彼は大きく溜息をつきながら続けた。 「悪かったな…まだ万全じゃなかったのに、あちこち連れ回して…」 「…」 僕は、ブンブンと首を横に振った。 「歩いて…帰れそうか?」 「…ん」 僕は、頷きながら、ゆっくり立ち上がった。 「…ちょっと恥ずかしいけど…」 僕は、タオルで鼻と口を押さえたまま…歩き出した。 「ごめんね…タオル、買って返す」 「そんなのはどうでもいい」 シルクは、しれっと言いながら…そんな僕の腕を、ずっと掴まえていてくれた。 何とかシルクの家に辿り着いた。 彼が、買ってきた荷物をキッチンにドサドサと出している間に、僕はそーっとタオルを外した。 「…止まった…かな」 幸いにも、それ以上、血が垂れてくる事は無かった。 「とりあえず顔洗ってこい…」 シルクは、まじまじと僕の様相を見て、続けた。 「…いや、いっそ風呂だな」 「…」 僕はとりあえず、洗面所の鏡を見にいった。 「…うわあー」 予想以上の惨状だった… 鼻から口にかけてはもちろん…頬や首にまで血の跡がついていた。 両手も血の跡がベッタリだし…垂れたり擦ったりして、シャツもあちこち汚れていた。 「ちょうどいい…俺も風呂入りたいし…」 そう言ってこっちにやってきたシルクは、シャワーの栓を捻ると…自分の服を脱ぎ捨てて、洗濯機に突っ込んだ。 「そのシャツも…早く洗わないと取れなくなるぞ」 言いながら彼は、半ば無理矢理に僕のシャツを脱がせて、洗濯機に突っ込むと…洗剤を入れて、スタートボタンを押した。 そしてさっさと…浴室に入っていった。 「…っ」 僕もズボンを脱いで…彼の後を追った。 「とにかくまず顔だな…」 言いながらシルクは、洗顔フォームを、自分の手に取って泡立てた。 そして、それを僕の顔になすり付けた。 「…全くな…」 僕の顔をゴシゴシと洗いながら…彼はふふっと笑って呟くように言った。 「銀色といい鼻血といい…今日はレアなお前をいっぱい見れたな…」 …銀色? 口を開けられない僕は、えっ?っていう表情で、彼を見上げた。 「もしかして自分で気付いてない?」 「…」 僕は頷いた。 「ふうん…」 シルクはその勢いで…さっさと僕の頭と身体も洗うと、頭からザーッとシャワーを流した。 「はい、終わりー」 「…っ」 僕は、アレッていう目で彼を見た。 や、ヤらなくてよかったの…? 「だってまた…のぼせて再出血したら困るだろ」 「…」 そ、そうでしたー お気遣いありがとうございます、お母さん

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