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個展のあとで(2)
先に風呂から上がった僕は…とりあえず上半身は裸のまま、ドライヤーで髪を乾かしていた。
パサッと、頭の上に…例の丈の長いシャツが投げられた。
「……っ」
「ズボンも洗濯してやろうか?」
「大丈夫!」
バシッと言いながら僕は、それを着た。
「何だ…それじゃ全然エロくないな…」
「…」
もうー
思いながら、僕はクスッと笑った。
シルクは濡れた髪のまま、キッチンでテキパキと作業を進めているようだった。
「ドライヤー終わったから、交代する?」
「んー」
僕はキッチンに行った。
「何かやっておくことある?」
「じゃあ、このキャベツを千切りにして晒しといて」
「わかった」
「あとこの、ゆで卵が冷めたら…微塵切りにして、ここに入れといて」
言いながら彼は、既に微塵切りになった玉ねぎが入った小さいボウルを指差した。
「あ、もしかして…タルタル?」
「うん…あと、食パンあるから…何か挟んでサンドにしといてくれてもいいよ」
「わかった!」
そして僕は彼と交代すると…言われた作業を進めた。
キャベツの千切りと、ゆで卵の微塵切りが終わると…僕は冷蔵庫を漁って、パンに挟むものを探した。
チーズもハムも、キュウリもあった。
トマトと…レタスも少し残っていた。
僕は早速、パンをトースターで焼きながら、野菜を切っていった。
ほんのり焦げ目がついたパンに、マーガリンとマヨネーズを塗って…チーズ、キュウリ、ハム、レタス、トマトをたんまり乗せて、ギュウギュウに挟んだ。
「ずいぶん欲張ったなー」
ドライヤーを終えたシルクが戻ってきた。
「だって、良いものがいっぱいあったから…」
言い訳しながら、僕はそのギュウギュウのサンドを、ラップにピッチリと包んだ。
それからシルクは、研いだあった米に、玉ねぎとにんじん、ベーコンを刻んだのを入れると、コンソメと塩コショウを入れて、炊飯器にセットした。
そして、深めのフライパンに油をドボドボと入れていった。
「ゆっくり買い物出来なかったから、メインはこれで我慢して」
言いながら彼は、冷凍庫から白身魚のフライを取り出した。
「うわー!」
僕は歓喜の声を上げた。
「全然我慢じゃないよ…むしろよかったー」
「ははっ…」
ほどなく、美味しそうに揚げられた白身魚フライは、キャベツの千切りと一緒に皿に盛られた。
それからシルクは、ボウルに卵を2つ割った。
「ご飯…取り出してくれる?」
「はいっ」
僕は炊飯器を開けて、釜ごとご飯を取り出した。
良い感じのピラフが炊けていた。
「もしかして…」
僕が呟いたそばから、彼は今度は浅めのフライパンにバターを落とすと、溶いた卵をジャーッと流し込んだ。
「オムライスだ!」
「うん」
半熟になった卵の上に、ピラフがもっさり乗せられて…それをシルクは手際良く、卵で包んでいった。
「…すごい…シルクってホントに何でも上手なんだね…」
若干ドヤ顔で、彼はそれを大皿に移すと、また冷凍庫からタッパーを取り出して、レンジにかけた。
その隙に、僕はサンドを切り分けて、皿に盛った。
「炭水化物多めになっちゃったな…」
言いながら、シルクは温まった、そのタッパーに入った自家製デミグラスソースを、オムライスにトロッとかけていった。
「うわあ〜」
パラッとパセリもかけられて…それはまさに、お店で出てくるような、素晴らしいオムライスに仕上がった。
「ワイン買ってくるか…」
「あ、だったら僕が行ってくる」
「いや、また鼻血出されると困るから、俺が行く」
「…っ」
「皿、並べといて」
「わかった…ありがとう」
そしてシルクが、コンビニにワインを買いに走ってる間に、僕はテーブルのセッティングをした。
取り皿や、ワイングラスも並べた。
ほどなく帰ってきたシルクと僕は…その素晴らしいオムライスと、白身魚のフライ…そして僕が作ったサンドを囲んで、白ワインで乾杯した。
「すごーい、豪華になった…いただきます」
「いただきます…」
僕はまた、バクバクと食べ進めた。
冷凍の白身魚のフライは、自家製タルタルのおかげもあって、とても美味しかった。
もちろん、素晴らしいオムライスも…まさにお店で出てくる味だった。
「このソース、すごく美味しいね!」
「お前のサンドも美味い」
コンビニのワインも美味しかった。
「それにしても、鼻血はビックリしたな…よく出るのか?」
「あー子どもの頃はよく出てたけど…」
何だったんだろうな…
もしかしたら、あの変な薬のせいだったのかも…
「何にしても、疲れたんだろうな…」
「…たぶんね」
「ショウヤともヤっちゃったしなー」
「…そうでした」
シルクが、そんな風に、何事もないように話してくれる事が…僕は本当に嬉しかった。
穏やかな2人の時間を過ごしながら…僕は、目の前のシルクへの想いを、深く心に刻み込むのだった。
僕はやっぱり…
この人の事が好きなんだ。
そしておそらくきっと…少なからずこの人も、僕の事を大事に思ってくれている…
出張先から、すっ飛んで来てくれるくらいに…
それでも…だからって、どうする事も出来ないのは…
もちろん分かっていたんだけど
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