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久しぶりのリハ(1)

「おはよー」 とても久しぶりに…僕らはカイの店に集合した。 「…おはようございます」 「カオルー久しぶりー」 駆け寄ってきたサエゾウが、僕に抱きついた。 「禁断症状出そうだったー」 そのまま彼は、僕の頬やらくちびるやらに、何度も口付けてきた。 「……」 僕は、されるがままになっていた。 「ショウヤの個展は行ったの?」 言いながらカイが、僕の分のハイボールを出してくれた。 「あ、はい…」 「こないだ、全然既読つかなかったー」 「あースイマセンでした…」 「アヤメとヤってたのー?」 「あ、いえ…そういうわけでは…」 バタン… そこへシルクが入ってきた。 「あ、シルくん、おはよー」 サエゾウは、今度はシルクに抱きつきに行った。 僕は思わず、ホッと胸を撫で下ろした。 「出張のお土産ないのー?」 「あー悪いな、買ってる暇無かったんだ」 言いながらシルクは、チラッと僕の方を見た。 僕は慌てて目を逸らした。 「そう言えば、2人とも新曲出来たって言ってたよな」 カイが、シルクにハイボールを出しながら言った。 「えーそうなの??」 「あーごめんなさい…僕の方は、まだ音源が出来てないです」 「俺のも、カオルに歌入れてもらってから公開するわ…どうせ次のイベントには間に合わないだろうし」 「何だーじゃあ今日は聞けないのー?」 「イベント終わってからね」 この間と同じ、例のマスターの主催するイベントが、既に1週間後に迫っていた。 「セトリは、前回と同じですか?」 「あーそれでもいいんだけど…デッドと真夜庭と、無題も入れたいと思ってるんだけど…どう思う?」 「…」 カイの問いかけに、しばらく考えてから…3人は口々に言い合った。 「それならマスカレ始まりでいいか」 「で…無題かな…続いて静かめに、ワルツと真夜庭?」 「今回はフツーの宵待ちで…最後は神様ー!」 「決まったな…」 「…」 すごいな…そこで揉めたりしないんだ… って言うか、僕もその順番が良いと思っていた。 僕も…この人達と繋がってるって事なのかな… そう思いながら、僕は密かにふふっと笑った。 「じゃあ早速、それでやってみよう」 「にゃー」 カイの一声で、皆はいそいそと定位置について、セッティングを始めた。 トキドル…久しぶりだ… マイクのセッティングをしながら…僕は、無意識のうちに、ものすごくワクワクしている自分に、ちょっと驚くほどだった。 そして、そのセトリの順に、曲が始まった。 「…っ」 久々に響く彼らの音が、すぐに僕を撃ち抜き…それは、じわじわと身体沁みていった。 それは…あのとき幾度も犯された、僕の中の憂いの全てを、払拭していくような気がした。 ほどなく僕の身体は、彼らの演奏に侵食され…僕は、この上ない甘美な幸福感に満たされたていった。 それはおそらく…シルクに抱かれているときでさえ、得られない感覚だった。 恍惚の表情で、取り憑かれたように歌う僕の横顔を見て…シルクはニヤッと笑った。 2曲を終えて…サエゾウが言った。 「なーんか、カオル絶好調じゃないー?」 「…久しぶりだから、楽しくてしょうがないです」 「それだけー?」 「えっ…」 「何か前よりパワーアップしてるー」 「ホントですか?」 「お前もだけどな…サエ」 「…っ」 カイにそう言われて…サエゾウは、意味深な様子で、少し顔を赤らめた。 「続けよー」 誤魔化すようにサエゾウは言いながら、くるっと振り向いた。 「次は…ワルツだな」 「…」 レンの絵を見て作ったその曲は…嫌でも僕に、あの夜の事を思い出させた。 もしかしたら、ちゃんと歌えないかもしれない… 少し不安に思っている僕を他所に…サエゾウが、イントロを弾き始めた。 「…っ」 ホントだ… サエさん…パワーアップしてる! 以前にも増して、鮮やかな風景を描きながら…彼のリフが、ドカンと僕の身体に飛び込んできた。 それはまるで、あの夜飲まされた媚薬のように…僕の身体を、じわりじわりと熱くさせていった。 「……」 そして僕は歌い出した。 「…っ」 「!!」 その、僕らのハーモニーを聞いて…カイとシルクは、外からでも分かるくらいにゾクゾクッと震えた。 2人は思わず顔を見合わせた。 そして…苦笑し合いながら…来たる間奏のタイミングを待った。 ドラムとベースが加わってからの、そのギターソロは、またも格別に力強かった。 僕は、まるであの夜のように…彼らの演奏に、嗜虐的に犯されていく感覚に陥ってしまった。 勝手に身体が、ビクビクと震え上がった… 間奏が終わり…静かな2回目のAメロを歌う間も、僕の震えは止まらなかった。 そして、ブレイク… カイのロールからの…激しい最後のサビに至っては、まさにレンの描いた人形が、悲しげに踊っている姿が…僕には、現実にそこにいるように鮮やかに見えた。 熱く昂る心と身体に突き上げられて…叫ぶように歌い上げながら… 僕は…涙が止まらなかった。

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