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久しぶりのリハ(2)

「えっ…どうする…続けられるー?」 ワルツが終わって…完全にその場に泣き崩れてしまった僕を見て、サエゾウが言った。 「あーあー」 色々察したシルクは、若干苦笑しながら、大きな溜息をついた。 「…っ…うっ…」 「そんなに悦かったのー?」 「…」 「休憩するか?…処理するか」 「…っ」 僕は蹲ったまま、大きく首を横に振った。 「歌えないだろ」 言いながらシルクは、さっさとベースを下ろすと…僕の腕を掴んで、僕の顔を覗き込んだ。 「…」 僕は泣きながら彼の顔を見上げた。 「処理はともかく…いったん休憩にしよう」 カイもそう言いながら、ドラムから離れた。 「ホントに処理しなくていーのー?」 ギターを下ろしたサエゾウが、僕の隣にしゃがんだ。 「するならサエだな」 「…まだ、大丈夫です…」 僕は必死に言い張った。 「そんな我慢しなくていーのになー」 残念そうにそう言い残して、サエゾウはカウンターに向かっていった。 「無理すんな」 「…大丈夫」 シルクに支えられて…僕も何とかカウンターに戻った。 カイが、皆のおかわりを出しながら、ポーッと呟くように言った。 「すげー良かったな…ワルツ」 「ああ…あれか、サエ…例の先輩のせいか?」 「えー何でシルくんが知ってんのー?」 シルクはふふっと笑いながら、カイに向かって言った。 「サエも進化しちゃったんだな…」 「…そういう事らしいな」 「…?」 何を言ってるのか分からない表情のサエゾウに、シルクが解説するように続けた。 「要は、進化の糧になっちゃったんだろ…その、先輩とヤった事が…」 「何でそこまで知ってんのー!?」 「言っとくけど、俺が喋るより先にシルクが予言したんだからな」 「えー何それー!?」 カイは…あの日の夜に、サエゾウとユウマが帰った後にシルクが来たときの事を話した。 「…っ」 そうか… サエさんに、そんな事があったんだ… 2人に色々言われて、いつになく恥ずかしそうな表情のサエゾウを、僕はちょっと面白がって見ていた。 「待てよ…って事は…」 散々小さくなっていたサエゾウが…ハタと気付いたように言った。 「カオルも何かあったんじゃないのー!?」 サエゾウとカイが、クルッと僕の方を見た。 「……っ」 「何ーシルくん知ってんのー!?」 黙ってニヤニヤしているシルクを見て、サエゾウは更に責めるように続けた。 「怪しいー絶対何かあったー!!!」 「…っ」 僕は、縋るような目で、シルクを見上げた。 彼はしれっと言い放った。 「自分の口で説明するんだな…」 …ですよね 「あ…あの…割と長くなるので…練習終わってからじゃダメですか?」 「ダメー!」 「今聞きたい」 「モヤモヤして練習んなんないー」 「さっさと言え」 2人は怒涛の勢いで、超即答した。 「…はぁ…」 致し方なく…僕は観念して、語り始めた。 最初は、レンに誘われて個展に行ったところから…モデルに連れて行かれた事… 高給に目が絡んで、その後何度もモデルのバイトをやった事… アヤメと一緒に、CD用の絵も描いてもらった事…そのときにレンが、アヤメに口止めした事も話した。 「レンの奴〜何だよな、呼ぶんじゃなかったー」 サエゾウは、予想通りのお怒りのご様子だった。 僕の語りは…更にその先の事に至った。 マナミを紹介されて、更なる高額のモデルのバイトに行ってしまった事… そして、そこで繰り広げられた一連の流れを…僕は正直に彼らに語った。 要は、薬を飲まされて…強姦された事も… 「えええーっ…何それー!?」 「マジか…」 「じゃあ何…カオル、そこに来てたおっさん達、全員にヤられちゃったの…?」 「…あ、いや…全員がおっさんだったわけでは無かったですけど…」 「そーいう問題じゃないー!」 サエゾウは椅子から飛び降りて…僕のそばに来ると、僕の身体をギューッと抱きしめた。 「もうー何やってんだよー」 「…っ」 半泣きのサエゾウに抱きつかれながら…僕は、おずおずとカイの方を見た。 「…」 カイも、黙って顔を顰めていた。 「そんで…それからどーしたのー?」 僕を抱きしめたまま、サエゾウが続けた。 「…シルクに…迎えに来てもらいました…」 「…っ」 2人は…今度はシルクの方を見た。 「おかげで、お土産を買う暇が無くなった」 「北海道から行ったのかよ」 「えー何それ、シルくんズルいー!」 サエゾウは僕からパッと離れて、今度はシルクの腕を掴んだ。 あ、矛先がズレて良かった… 「…って事は…既に上書き済みか」 「ショウヤにね」 「ええーっ」 そして今度はシルクが…ショウヤの個展を見に行った先での出来事を語って聞かせた。 それを聞いたサエゾウは、大きく溜息をつきながら…元いた自分の席にドッカリと座った。 「はあぁーもうー」 「そりゃー進化もするわな…」 カイが、小さく呟きながら…煙草に火を付けた。 「…」 しばらくの沈黙の後に…カイが言った。 「どうする?色々スッキリしたところで…練習再開するか?」 「あんまりスッキリしなーい!」 「ま、そこに関しての審判は、お前に任せるよ」 シルクがニヤッと笑って、サエゾウの肩をポンと叩きながら言った。 「…」 それを聞いたサエゾウは…しばらく考えてから、とても悪い表情で、ニヤニヤし始めた。 「よーし分かったー!」 そして、スタッと椅子から飛び下りた。 「さっさと練習終わらせようー」 「そうだな…」 「それがいい…」 「……」 さっさと…むしろ意気揚々に定位置に戻っていく3人の後ろ姿を見ながら… 僕の胸には、果てしなく大きな不安が募った。

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