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審判のあと(2)

カイに連れて行かれた先の病院で…僕はすぐに診察を受ける事が出来た。 「あー…パックリ割れてますねー」 「…そ、そうですか…」 「どうしてこうなったんですか?」 「あ、あの…酔っ払って、寝てしまって…椅子から落っこっちゃったみたいです…」 「あーそうですかー」 お医者さんは、半ば呆れたように言いながら…傷口を消毒していった。 さすがにちょっと痛かった。 「ちょっと留めておきます…痛いかもしれませんけど、我慢してください」 「すいません…お願いします」 「周りの髪をちょっと切っても大丈夫ですか?」 「あー…はい…」 来週LIVEだけどな… きっとハルトさんが、良いヅラを用意してくれるだろう… そして、そのお医者さんは…テキパキと準備をして、僕の頭の傷口を、バチンバチンと、何やらで留めていった。 「3日後くらいの日中に、来れますか?」 「はい」 「何回か消毒に来てもらって…問題なければ、抜糸は1週間後になります」 「…わかりました」 「あと、念のため…頭のMRIを撮っておきますね」 「…はい」 それから僕は、違う部屋に移動しての…MRIを撮られてから…再び同じ診察室に戻った。 「うん…中身は異常無さそうですね」 「そうですか…よかった…」 「じゃあお大事にしてください…お風呂とか洗髪とかは、普通にして大丈夫ですからね」 「あ、そうなんですね…」 僕はふと思い出して訊いた。 「来週…たぶん抜糸より前に、LIVEがあるんですけど…大丈夫ですかね」 「あー、痛く無ければ、特に問題無いですよ」 「そうですか…」 僕は、ホッと胸を撫で下ろした。 「まあ、飲み過ぎには注意してください…また余計にケガをしない程度に」 「あーそうですよね、すいません…」 そして僕は、そのお医者さんに、深々と頭を下げて…診察室を後にした。 「どうだった?」 待合室でずっと待っていてくれたカイが言った。 「はい…ちょっと縫われましたけど…1週間で抜糸出来るそうです…MRIも異常無しでした」 「そうか…」 「お風呂も…LIVEも大丈夫だって言われました」 「それはよかった…」 カイも、ホッとした表情をしていた。 それから会計を済ませて…僕らは再び、タクシーでシルクの家に戻った。 ビルの玄関を抜け、階段に差し掛かった所で… カイは突然振り返って、僕の腕を引っ張ったと思うと…僕の身体をギュッと抱きしめた。 「…!!」 そしてカイは…少し震える声で言った。 「頼むから…もっと自分を大事にして欲しい」 「…」 「俺が言うなって感じだけどな…」 「…」 少しだけ腕を緩めた彼は、じっと僕の目を見つめながら、続けた。 「お前がやりたい事を、止める権利は無いし…お前が経験する事が、全てお前の糧になるってのも…延いてはバンドのためになるってのも分かってる…」 「…」 「それでも、俺たちが…サエもシルクも…お前の事を、どんなに大事に思ってるかって事…頭の隅っこでいいから、留めておいてくれないか?」 「…」 そんなカイの、真剣な言葉に…僕はたまらなく胸が熱くなった。 何も言えなくなってしまった僕を見て…カイは、少しハッとしたように、慌てて腕を緩めた。 「…お前に何かあったら、サエが病んじゃうからな」 「…っ」 そして、くるっと前を向きながら、ボソッと続けた。 「…俺もだけど」 「…」 僕は思わず、カイの背中に抱きついた。 「…!!」 彼は、足を止めた。 「…すいません」 「…」 カイは、僕の腕を振り解きながら、僕の方を向くと…僕の顔を両手で押さえて、そっと口付けてきた。 「…っ」 カイらしからぬ…とても優しい口付けだった。 ゆっくり口を離れた彼は、ふふっと笑いながら言った。 「個人的な謝罪…楽しみにしてる」 「…はい」 そして僕らは、シルクの部屋に戻った。 すっかり片付いて、布団が敷かれた部屋で…サエゾウが、ややグッタリした感じでテーブルにもたれかかっていた。 「おかえり…どうだった?」 「うん…ちょっと縫ったけど、そんな大した事は無いみたい」 「よかった〜」 言いながらサエゾウは、バッと立ち上がると、ガバッと僕に抱きついてきた。 「死ななくてよかったー」 「もう…大袈裟ですよ、サエさん…」 僕の肩に顔を埋めたサエゾウは…本当に泣いているようだった。 僕は、チラッとカイを見た。 カイは、大きく溜息をつきながら言った。 「とりあえず…今日はここで寝ろ…シルクに様子を見といてもらった方がいい」 「…はい」 サエゾウは、またバッと顔を上げると、今度はシルクの方を振り返って言った。 「絶対ちゃんと見ててよ、ヤるんじゃないぞー」 「わかってるよ」 それから、カイとサエゾウは…連れ立って部屋を出た。 「じゃあ来週…カオル、くれぐれもお大事にね」 「…はい、ありがとうございました」 「個人的なお仕置きは、全快するまで我慢するー」 「……っ」 全快したら忙しくなりそうだなー 「サエも気を付けろよ」 「カオルが元気んなったから、もう平気ー」 そして僕らは、玄関先で手を振って2人を見送った。 バタン ドアが閉まってから… シルクはふふっと笑って呟いた。 「サエは、単純だけど繊細だよな…」 「…」 「あのとき…お前の迎えを、サエに譲らなかったのは…ある意味、正解だったかもしれないな…」 「…」 「あいつが行ったら…大惨事になってたかも…」 「……」 僕は、笑えなかった…

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