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審判のあと(3)
それから僕らは、ベランダの窓を開けて…いつものように煙草を吸っていた。
半分冗談めいた口調で…シルクが言った。
「この先…お前がまた、何かやらかす事があったとしても…間違っても、サエだけは呼ばない方がいいな」
「……」
「…わかった」
僕は目を伏せて…少し笑いながらそう答えると…少し気まずい感じで、早々に煙草を揉み消した。
そして、勝手知ったる感じで戸棚からグラスを取り出し、水を汲んでゴクゴクと飲んだ。
煙草を消して、窓をパタンと閉めたシルクが…僕の背後から、そっと僕の頭を掴んだ。
「…」
彼は、僕の髪を掻き分けて…傷口を確認した。
「痛む?」
「…ううん…そんなに痛くは無いけど…変な髪型になってない?」
「確かにここだけ切ってあるけど…隠れちゃってるから、全然分かんないよ」
「…だったらよかった」
それからシルクは、僕の身体をクルッと自分の方に向けると…力強く、僕を抱きしめた。
「…っ」
「止めてやれなくて…ごめん」
「ううん…全然、僕が勝手に落ちたんだし…」
僕の肩に顔を埋めて…心底ホッとしたように、彼は小さい声で言った。
「ホントに…よかった…」
「…」
僕の胸に…さっきの、サエゾウとカイの言葉が蘇った。
痛いくらい胸が熱かった。
この人達の強い気持ちを痛感した。
僕は、彼の背中に両腕を回しながら言った。
「…ごめんね…余計な心配させて…」
「全くな…どんだけやらかしてくれんだか…」
「あ、これもみーんな、あの落ちる夢のせいかな」
「…そう言えば、そんな事言ってたな」
僕らは顔を見合わせて…ようやく笑い合った。
「…寝るか」
「うん…」
ほどなく僕らは電気を消して、並んで布団に入った。
「横向いてた方がいいんじゃない?」
「あ、そうだよね…」
僕は、シルクの方を向いた。
彼は僕の首の下に腕を差し込んで…僕の頭を自分の方に抱き寄せた。
どちらからともなく…僕らは口付けた。
「ホントは後でヤろうと思ってたのにな…」
「…ごめん」
「しっかし、エロかったよなー」
「…っ」
「サエの審判…予想以上だったな…よくもまあ、あんなに色々やらしい事を思い付くよな、あいつ…」
「……」
ホントだよっ…
「あれも才能だよなぁ…」
「…シルクもかなりなもんだと思うけど?」
「いやいやいや…サエには敵わないだろ」
「そうでもないよ」
「…」
シルクは、ふっと笑って僕の頬を撫でた。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど…今日のところは大人しくしとくわ」
「…ふふっ」
「散々ヤり散らかされた上に、ケガまでしたからな…相当お疲れなんじゃないの?」
「…ん」
僕はそっと目を閉じた。
実際、とても身体が疲れているのを感じた。
ほどなく、僕はスーッと眠ってしまった。
それを確認してから…
シルクもようやく目を閉じた。
◇
カイに送られて…サエゾウも、自分の部屋に帰った。
勿論、送り何とかで…
あっちの2人も、並んでベッドに入っていた。
「カイはすごいなー」
「何が?」
「あんとき…冷静に、病院探してくれてたじゃん」
「…」
「俺…全然ダメだった…ホントにカオルが死んじゃうかもって思ったら…何にも出来なかった…」
「…」
カイは、天井を見つめたまま…小さい声で言った。
「俺だって、そんな冷静じゃ無かったさ」
「…」
「スマホ持つ手が震えてんのが、自分で分かった」
「ホントにー?」
「まあでも…たまに店のお客さんが、飲み過ぎて倒れたり、転んでケガしちゃったりする事があるからね…そんときの経験が、ちっとは役に立ったんかな」
「そうなんだー」
それからサエゾウは…眉間に皺を寄せながら続けた。
「レンのやつ…今度会ったら1発殴ってやんないと気が済まないー」
「ああ、例の…モデルの件?」
「そんな酷い所に、カオルを売り飛ばすなんてー」
「売り飛ばすって言うか…最終的には、カオルが自分の意思で行ったんだろ?」
「でも…元はと言えば…俺がカオルを紹介しちゃったんだよなー」
カイの言葉が耳に入らない様子で…サエゾウは、両手で自分の顔を覆った。
「言ったら…カオルが知らないおっさん達に輪姦されたのも…全部俺のせいだ…」
「…っ」
「それなのに、あんな酷いことしちゃった…あれが無ければ、椅子から落ちる事も無かったかもしれないのに…」
「…」
(あーあ…また自責モードに入っちゃったよ)
カイは大きく溜息をついた。
「サエ、いい加減にしろよ」
「だってー」
カイは、半泣きのサエゾウの顔を、しっかりと両手で押さえ付けながら、続けた。
「お前がカオルに、レンの絵を見せたおかげで…あの名曲が生まれたんだろ?」
「…」
「レンを紹介したおかげで、カオルはモデルのバイトで、散々稼げたんだし…」
「…」
「知らないおっさん達に輪姦されたおかげで…あいつはまた進化した」
「…っ」
「何より、お前の審判のおかげで…俺らはまた、今まで以上にエロいカオルを見れたし…気持ち良くヤれた!」
「…」
「まー椅子から落っこったのは、不慮の事故だったけどな…そんなのは、俺やサエだって、いつ落ちてもおかしくないからな…お互い様だろ」
「…」
サエゾウの表情が…
段々といつもの悪い笑顔になっていった。
「そっか…やっぱみんな、俺のおかげなのかー」
「…」
(そこまでは言ってないけどな…ま、いっか…)
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