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楽しい地元のイベント再び(3)
そんな静寂の余韻からの…
じわじわと真夜中の庭の曲が始まった。
ワルツで、完全に犯られていた僕は…今にも崩れ落ちそうに、フラフラしながら歌い出した。
ほどなく広がる、美しく楽しい庭の光景に…会場の雰囲気は、ようやく和んでいったものの…僕のダメージは更に進み、最後にはやはり、膝を折って両手を床につけてしまった。
容赦なく…宵待ちのイントロが始まった。
「…っ」
それは…挿れた相手が吐精したあとに…更に余韻で幾度もイかされる感覚と似ていた。
「んっ…はあ…」
そんな感覚に突き上げられ続けて…僕は思わず、身体を震わせながら声を上げた。
そしてそのまま…喘ぐように歌った。
「エロモード全開だな」
「ああ…僕も紙パンツにしておけばよかったです…」
この上なく妖艶で淫靡な宵待ちだった。
おそらく会場の誰もが…少なからず、良からぬものを感じずにはいられなかったのではないだろうか…
そして歌い終わった僕は、またズルズルとその場にしゃがみ込んでしまった。
「あーイっちゃったかなー」
マイクに向かって、サエゾウが言った。
冗談でも…それ言わないでもらえませんか…
朦朧としながら、そう思った僕の横に…シルクがシュッと跪いた。
彼は僕の顎を掴むと…
心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「平気?」
「……」
シルクのその行為は、おそらくは計算済みだったに違いないのだが…僕は思わず、素に戻って、泣きそうな表情で彼を見つめてしまった。
「キャー」
「ヤバくない?」
「ホントにそういう仲なのー?」
「…」
トキドルをよく知らないお客さん(女子)にも…その光景は、割と刺激的だったらしい。
歓喜の悲鳴は、なかなか鎮まらなかった…
「もうー…イチャイチャすんのは、終わってからにしてくんないかなー」
「はいはい」
お怒りのサエゾウに言われて、シルクは僕の髪を撫でながら立ち上がった。
またも悲鳴が湧き上がった。
「ちょっとやり過ぎなんじゃないの…」
「いや、初めてのお客さんには、あれくらい刺激がある方が良いと思います!」
若干呆れ顔のハルトに向かって、ショウヤがキッパリと言い切った。
「今日も皆のおかげで楽しかったー」
「また絶対、見に来いよ」
そんな締めのMCに続いて、最後の神様が始まった。
僕はまた、条件反射のようにスクッと立ち上がり…力強く歌い上げた。
会場が、まさに愉快な宴さながらに大いに盛り上がって…その日のLIVEは終わった。
アンコールの呼び声がかかる中…
僕らは早々に撤収に取り掛かった。
ハルトとショウヤが、サクサクとステージにやってきて、フラフラの僕を回収してくれた。
「いやあー良かった、ものすごく良かったよ」
興奮気味に、例の強面マスターが、僕らに駆け寄り…2人に支えられて楽屋に戻ろうとしていた僕に、思い切り抱き付いてきた。
「…っ…あ、ありがとう…ございます…」
「こないだも良かったけど…今日は更に良かった…何て言うか、居ても立っても居られない気持ちになったよ」
「…っ」
若干息を荒げたマスターは、本当に感動した様子で…僕をしっかりと抱きしめたまま、なかなか離そうとしなかった。
「……」
「あーあの…」
「あ、ごめんごめん…」
ようやく僕から離れた彼は、僕の肩を叩きながら続けた。
「今度、うちの店にも遊びに来て」
「あ、はい…わかりました」
そしてマスターは、今度はステージに向かっていって、他の3人様にも、同じように声をかけていった。
ふと…会場の隅に立って、こっちを見ている…いつもの女子3人組の姿が目に映った。
「あ…あの子たち…」
「はい…カオルさん行けますか?」
ショウヤが言った。
「はい、行きます…」
「じゃあ2人で挨拶しておいで…俺はあっち手伝ってくるから」
ハルトはそう言って、ステージに向かっていった。
そして僕は、ショウヤに支えられながら…
彼女達に近付いた。
「あ…あの…いつも…ありがとうございます」
僕は、若干覚束ない口調で言った。
まあ、LIVE前でも…覚束ないのは変わりないんだけど
「お疲れ様でした…」
「今日のカオルさん、めちゃめちゃカッコよかったです…あ、いや…いつもカッコいいんだけど…今日みたいな感じも、すごく素敵です!」
「歌も、いつも以上に良かったです…泣きました」
「…そんなに…言ってくれて…ホントにありがとうございます…」
言いながら僕は、深々と頭を下げた。
「あああ〜そんな、こちらこそありがとうございます」
「ていうか…LIVEの後にカオルさんとお話出来るとか…初めてですよね」
「ヤバい…また泣く…」
「…っ」
彼女たちは、本当に目に涙を浮かべていた。
僕は彼女たちに向かって、震える右手を差し出した。
「…っ」
咽び泣く彼女たちと順番に握手を交わして…僕はそのまま、ショウヤと2人…彼女たちと一緒に店の外に出た。
「ショウヤさんもお疲れ様でした」
「あの…人形の件、ありがとうございます!」
「はい、近日中に送りますね」
「楽しみに待ってます!」
そして僕らは、手を振って彼女たちを見送った。
彼女たちとショウヤが、親しげに話していたのを、意外に思った僕は…彼に訊いた。
「いつの間に…そんな仲良くなったんですか?」
「あ…いえ、その…」
ショウヤはモゴモゴしながら、顔を赤くしていた。
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