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個人的謝罪そっちの2人(1)
「あ、カオルさん…こっちこっち!」
駅の反対口から少し歩いた場所にある店に…若干おずおずと入っていった僕に向かって、ショウヤが大声で叫びながら手を振った。
「…お待たせしました」
「いいえ、僕らも今さっき来たところです」
ハルトとショウヤが向かい合って座っていた。
僕はショウヤの隣に座った。
「この店、初めてですか?」
「はい…気にはなってましたけど…」
「美味しい鶏天のお店なんですよ」
「そうみたいですね…クチコミでは見た事あります」
そして僕らは、いつもの…
ハイボールとビールとレモンサワーを注文した。
このメンバーだと、それぞれ注文するものが違うから…お店の人ちょっと面倒くさいだろうなー
そんな事を思いながら…僕らは乾杯した。
「カオルさん、お腹空いてますよね…どうぞ好きなの注文してくださいね」
「ありがとうございます…」
僕は目をキラキラさせながらメニューを見た。
美味しいって言う鶏天は外せないなー
でも、唐揚げとか、かき揚げとか、挟み揚げとか…鶏の揚げ物だけで、いったい何種類あるんだ!?
あーでも、だし巻き卵もさぞかし美味しいに違いない…
うーん、どうしよう…
悩みに悩んでいる僕を見て…
ショウヤはクスクスと笑いながら言った。、
「大丈夫ですよ、僕らも食べますから…気になるの全部いっときましょう」
そうだった…
読まれちゃうんだったわ
「すいません、注文お願いします」
そう言って店員さんを呼んだショウヤは…ことごとく僕が食べてみたいと思っていた物ばかりを、サラッと注文していった。
「……」
ほどなく運ばれてきた…名物の鶏天やら、他の鶏の揚げ物やら、だし巻き卵やらを…僕はいつものように、目を輝かせながらガツガツ食べていった。
7割方は僕で…残りの3割を、2人がちょいちょいつまんでいる感じだった。
そこそこ食べ進んでから…ハルトが、ニヤニヤしながら僕に訊いてきた。
「こないだサエの回だったんだって?」
「あ…はい…」
「ホントは僕らが先に約束してたのに…サエさんがあまりにしつこいから譲ったんですよー」
徐々に酔いが回って、上がってきた様子のショウヤが、すかさず突っ込んできた。
「楽しかった?」
「た…楽しいワケないじゃないですかー!」
顔を真っ赤にして、そう即答しながら…僕はうっかりサエゾウとの色々を、頭に蘇らせてしまった。
「ふうーん…」
ハッと気付いたときには、もう遅かった。
僕の方を見たショウヤが…とても納得したような表情で、それはそれはニヤニヤしていた。
「サエさんはスゴいですね…」
「…っ」
僕は更に顔を赤くして下を向いてしまった。
「ま、僕らにも、それ相応な準備がありますけどね」
何だそれ…
またも嫌な予感しかしないんですけどー
思いながら僕は、自分のハイボールをゴクゴクと飲み干した。
「おかわりしますか?」
「…あ、はい…」
「すいませーん…飲み物おかわりと…卵かけご飯もお願いします」
ショウヤは、声を上げて店員さんに注文した。
「卵かけご飯ですか!」
「はい、それも名物ですから、絶対食べてください」
それまでの鶏メニューの数々も、とても美味しかった。
こんなお店の卵かけご飯なんて…どんなに美味しい事だろうか!
すっかり顔色も戻って、分かりやすくワクワクしている僕の様子を見て…ショウヤはクスッと笑った。
「俺でも読めるわ」
ハルトが、ショウヤの耳元でコソッと囁いた。
「お待たせしましたー」
「…えっ」
ほどなく運ばれてきた、その卵かけご飯を見て…僕は目を丸くした。
「…何なんですか…これ!?」
「ね、スゴいでしょう」
それは、僕の知っている「卵かけご飯」とは、まるで違っていた。
白身はふんわり泡立ったメレンゲ状になっていて…その上に、天ぷらになった黄身と青葉…そして揚げ玉が添えられていた。
「こんなの初めて見ました…」
僕は早速…黄身を崩して、メレンゲを絡ませて、ご飯と一緒にかっこんだ。
「うわあーっ…美味しい…」
「どれ…俺にもちょっと食べさせて」
「どうぞどうぞ、すっごく美味しいです!」
その美味しい卵かけご飯も…
結局、8割方は僕が食べてしまった。
「お腹いっぱいになりました?」
「はい…とても美味しかったです」
「じゃあ、そろそろ移動しましょうか」
「…はい」
どこに移動するんだろうか
やっぱホテルとかか?
若干の不安を募らせながら…僕は彼らの後について席を立った。
「ここは俺たちが出すから」
「えっ…いいんですか?」
「勿論です」
さっさとカード決済を済ませて店を出てから…ショウヤは続けた。
「今日は僕たちの回ですからね」
「…」
「これは、あくまでも…僕たちが美味しく頂くための前戯なんですよ」
「…っ」
「丸々太らせた方が、より美味しいでしょうから…」
「……」
それってあれか、
狼が、子ヤギに餌をやって太らせて食べるみたいな…
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