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最後の個人的謝罪(1)
オカシい謝罪的企画を終えて…何とか社会復帰した僕は、その日、とても久しぶりに、レンのモデルのバイトに向かっていた。
もちろん、足取りは若干重かったのだが…
シルクやサエゾウを見返してやりたい気持ちもあり…僕は敢えて、それを再開する事にしたのだ。
まあ…マナミさんの依頼を受けるには、もうちょっと覚悟が要りそうだったけれど…
「おはよう…ございます」
「あーカオル、元気だったー?」
若干おずおずと、アトリエに入っていった僕に、レンが駆け寄ってきた。
「マナミがさあ、やり過ぎちゃったかもーって言ってたから、心配してたんだ…」
「あーまあ…」
って…言ったら貴方が勧めたんでしょうが…
思いながらも僕は、にっこり微笑みながら返した。
「初めてだったので、少しビックリしたし、それなりに疲れましたけど…もうすっかり元気になりました」
「そっかーよかったー」
「それに、ものすごく稼がせて頂きましたし」
「でしょ、あすこのお客さん…ホントに金払いがいいんだよねー」
あれは異常だわ…
心の中で呟きながら…僕は更に営業スマイルで続けた。
「あ、あと…CDのジャケットの絵も、ありがとうございました」
「いーえー…2人ともめっちや美形だから、描くのが楽しくてしょうがなかったよー」
僕は、アヤメから預かった出来上がりの新品CDを、レンに手渡した。
「お時間のあるときにでも、聴いてください」
「え、貰っていいの?」
「はい」
「サンキュー…今日早速BGMで流していい?」
「あー…はい…」
それは若干恥ずかしいかも…
なんて思いながらも…
光鬱の曲をBGMに、その日のモデルは、特に何もいかがわしい事はこれっぽっちもなく、順調に終わった。
このレベルなら、全然続けられそうだな…
会が終わって、集まったメンバーを見送って…僕は帰り支度をしながら、そう思った。
「今日はありがとうございました…」
「うん、やっぱりカオルは評判良いね…またちょくちょくお願いしても大丈夫?」
「はい、是非お願いします…あ、あとよかったら、来週LIVEやるんで、観に来てください」
「サエに殺されないかなー」
「あはははっ…そこはもう、しっかりカタを付けたはずなんで…大丈夫だと思います」
「そうなの?」
あんだけ好き勝手に審判プレイやったんだからな…
「マナミも誘っていーい?」
「あ…はい」
僕は咄嗟に口籠もってしまったが…スッと気持ちを立て直して、続けた。
「是非、よろしくお願いします!」
「わかった、聞いとく」
大丈夫…またマナミさんのバイトも再開出来るくらいに、強くならなくちゃダメだ。
僕は、腹を括る思いで…レンのアトリエを後にした。
地元に戻った僕は、そのままカイの店に立ち寄った。
「おう…お疲れ」
既に、数人のお客さんがカウンターに座っていた。
「今日は何の日だったの?」
その片隅に座った僕に、ハイボールを出しながらカイは言った。
「久しぶりに、モデルのバイト行ってきました」
「へえーそうなの…」
そして僕は、カウンターに座っていた他のお客さん達と、軽く乾杯をしてから…ハイボールをゴクゴクと飲んで、煙草に火を付けた。
カイが、少し声のトーンを落として言った。
「また例の、ヤバいやつ?」
「いや…違います…普通の方です!」
僕は両手をブンブン振りながら答えた。
「なーんだ…」
冗談めいた口調でそう答えたカイは、少しだけ安堵の表情を見せたが…すぐにまたニヤッと笑いながら続けた。
「給料安い方か」
「あー…言ったら…そうです」
あんまり突っ込んでこないで欲しい…
「カイくん、ドラムやってよ」
「あ、いいですよ」
そんな風に思っていたところで…ちょうど他のお客さん達が、カイに声をかけた。
彼らは、ステージの方にゾロゾロと向かっていった。
あーよかった…
ほどなくカイも加わっての、セッションが始まった。
少しホッとして…僕はハイボールを飲みながら、彼らの演奏を楽しんでいた。
演奏中に…お客さんが入ってきた。
「…」
僕は、そのお客さんに向かって、軽く会釈をした。
「あーお店の人、演奏中か…」
そう言いながら、彼は僕の隣に座った。
「この店…よく来るの?」
「あ…はい…まあ」
リハではよく来てますよー
お客さんで来る事は、あんまり無いけどな…
「何か楽器やらないの?」
随分と馴れ馴れしい人だな…
なんて少し思いながら…僕は答えた。
「ボーカルなんです」
「へえー、そうなんだ…じゃあ後で何か歌ってよ」
「えっ…」
「俺、ギター弾くからさ!」
「ギタリストさんなんですね」
「昔はね…」
彼は、煙草に火を付けながら続けた。
「高校生の頃は、ここの店主と一緒にバンドやったりしてたんだ…ま、今はただの営業マンだけどねー」
「あ…そうなんですか」
ん?
何か、そのような話を、どっかで聞いた事が…
あったような無かったような…
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