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最後の個人的謝罪(2)

「あ、ユウマさん…来てたんですね」 セッションを終えて戻ってきたカイが、そのお客さんに声をかけた。 「ああ…お疲れ…ビールちょうだい」 カイは、そのお客さんにビールを出した。 心なしか、面白く無さそうな表情に見えるのは、気のせいだろうか… 「カイさんの…お知り合いなんですか?」 「ああ…高校の時の先輩…ユウマさん」 「……」 んーやっぱり、 何か聞いた事があるような話だぞ… 「これ、ウチのバンドのボーカル」 カイは、ユウマに向かって僕を紹介した。 「あー!!そっかー」 ユウマは飛び上がるように驚いて言った。 「どっかで見たような気がしたんだ…ホントだ」 彼はマジマジと、僕を舐めるように見ながら続けた。 「YouTubeで観てるよ…へえーそっか…君があのボーカルくんかー」 「…あ、ありがとうございます…」 「カイもだけど…サエも俺の後輩なんだよ」 「そうなんですね!」 思い出した! サエさんが、先輩とどうこうって… そっか、それがこの人か!! そう思った僕は…チラッとカイの方を見た。 カイは、小さく頷きながら、僕に目配せをした。 「よろしくね」 言いながらユウマは、自分のビールジョッキを、僕に向かって掲げた。 「あ、はい…よろしくお願いします」 乾杯が済んで、ビールをゴクゴクと飲んでから… ユウマは、プハーッと息を吐きながら続けた。 「すっごい良いよね、えーっと…名前は?」 「あ、カオルって言います」 「カオルね…良いオーラ出してるよね」 「そうですか…?…ありがとうございます…」 いきなり呼び捨てかー 「サエの曲もさあ…カオルが上手く歌ってくれてるおかげで、絶妙な雰囲気出してるよ」 「…」 何か、上からだな…この人… 「いやー会えて嬉しいわ」 「…ありがとうございます」 何となく釈然としない気持ちで、ユウマの怒涛の喋りに付き合っている僕を…カイが少し心配そうに、チラチラと見ていた。 「今日は、サエは来ないの?」 「…!」 ユウマに言われて…僕は少しドキッとしながら、またカイの方を見た。 カイは、向こうのお客さんとの話に夢中になっていて、残念ながら気付かなかった様子だった。 「あー…どうでしょうね…」 「カオルが呼んでくれたら、来るんじゃない?」 「でも…バイトとかで忙しいかもしれないし…」 「俺…サエの連絡先知らないんだ…あ、それか、教えてくれる?…そしたら俺が直接呼ぶから」 「あーでも…本人の承諾が無いと…」 「えーいいじゃん…ちゃんと知り合いだからさ」 「…あ、そしたらカイさんに訊いてみますっ…」 しつこいユウマを…僕は必死に交わしていた。 「ユウマさん、ギターお願いしますよ」 そこへカイが、そう言って遮ってくれた。 「え、あ…分かった…」 ユウマは、致し方なさそうな表情で…すごすごとステージに向かっていった。 「ふうー」 僕はホッとして、大きな溜息をついた。 「ごめんな、カオル…」 「あ、いいえ…」 カイが、申し訳なさそうに、ハイボールのおかわりを出しながら、僕に言った。 「サエ、呼んでもいいよ?」 「えっ…だって…あんまり良い関係じゃなかったんじゃないですか?」 カイは、ふふっと笑いながら続けた。 「お前が絡まれてるって言ったら、すっ飛んで来るさ」 「……」 それから30分も経たないうちに… 本当にサエゾウが…まさに、すっ飛んできた。 ユウマがステージでギターを弾いてる隙に…彼はこっそり裏から入ってきて、心配そうに僕に向かって言った。 「カオルー大丈夫?」 「あーサエさん…何か、すいません…」 「変な事されなかった?」 「いやいや…そんな事は無いです…」 むしろサエさんの方が、いつも変な事してきます。 「サエさんに…会いたくてしょうがないみたい…ですけど…」 僕は続けた。 「サエさんこそ…大丈夫なんですか?」 「…」 サエゾウは、少し目を丸くして、しばらく僕を見ていたが…ほどなく、ニヤッと笑って言った。 「俺は平気ー…あの人がカオルに手出したら、締め殺すけどー」 「…っ」 サエゾウは、だいぶ安心した様子で、僕の隣に座ると…僕の耳元で囁くように続けた。 「だって…今日はアレでしょー?」 「…」 「カイに謝罪に来たんでしょー」 「…はい…まあ…」 彼は、僕の頭を撫でながら…続けた。 「邪魔させないから…さっさと連れて帰るからさ」 「えっ…でも、そしたらまたサエさんが…」 「俺は平気って言ってんじゃんー」 「…」 「ねー、カイ?」 サエゾウは、僕らの様子を見守っていたカイに向かって、同意を求めるように言った。 それを聞いたカイは…サエゾウのハイボールを出しながら…ふふっと笑って頷いた。 「ああ…」 「……」 カイさんとサエさんって… 本当に、通じ合ってるんだな… 分かり切ったような表情で、見つめ合う2人の様子を見て…僕は何となく、とても羨ましい気持ちになった。

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