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最後の個人的謝罪(3)
それから…サエゾウのおかげで、僕はユウマに煩く話しかけられる事は、全く無くなった。
いやむしろ…ちょっと淋しいくらいに、彼はサエゾウにしか喋らなくなってしまった。
この人は、本当にサエさんの事が好きなんだな…
僕はしみじみ思った。
いやもうホントに…そうとしか思えなかった。
それからユウマは、すっかりご機嫌で…何度もステージに立ってはギターを弾きまくった。
僕も何度か歌に付き合わされた。
彼はどんな曲でも卒無くこなした。
サエゾウやアヤメのように、独特の個性は感じられなかったが…技術的にはいちばん上手いんじゃないかと思った。
それなりにセッションも楽しんで、お客さんもボチボチはけてきた頃に…サエゾウは言った。
「じゃあ俺…そろそろ帰るー」
「え、じゃあ…俺も帰る」
ユウマが即時に反応した。
「…っ」
僕は思わず…カイの方を見てしまった。
カイは、顔色ひとつ変えずに、しれっと言った。
「あ、そう…お疲れ」
「じゃあまたねー、あ、LIVE行くからー」
「あ…はい、ありがとうございます…」
そう言ってサエゾウは、さっさと出口へ向かった。
「あ、カオル…一緒に演ってくれてありがとねー」
ユウマは、ついでのように僕に言うと…急いでサエゾウの後を追った。
「…いいんですか?」
僕は、カイに訊いた。
「何が?」
「だって…あの調子じゃ…またサエさん…」
「いいんだよ」
「…」
「それとも何か?…お前…妬いてんの?」
「…っ…そういうわけじゃ無いですっ…」
むしろ、カイさんの方が…もしかしたら妬いてるんじゃないかって思ってたけど…
それは杞憂だったのかな…?
僕はまた…煙草に火を付けた。
「お前は帰んないの?」
「…えっ」
「待っててくれんの?」
「…」
僕は、少し顔を赤らめて…小さく頷いた。
それを見たカイは…嬉しそうに、ふふっと笑った。
やがて、最後のお客さんが店を出ていった。
「看板片付けてくる…もし余裕あったら、洗い物下げといてくれると嬉しい」
「あ、はい…わかりました」
カイが外にいる間…僕はお客さんたちが残して行った空き缶やグラスを、カウンターの奥のシンクに運んでいった。
ほどなくカイが戻ってきた。
「サンキュー」
「これ、洗っちゃっていいんですか?」
「うん…悪いね」
「いえいえ…」
それから、何となく手分けをして片付けを終えてから…カイは改めて、ハイボールを2つ出してきた。
「助かった…いつもお前居てくれたらいいのに」
「あははは」
僕らは、カウンターに並んで座って乾杯した。
「あの、ユウマさんて人…ホントにサエさんの事が好きなんですね…」
「あーそうみたいね」
カイは、そんな事はどうでもいいような表情で、煙草に火を付けた。
「でも…ギター上手かったなあ…さすがサエさんとカイさんの先輩って感じしましたよ」
「まー元プロだった人だからね…」
「あんなに弾けるのに…もったいないですよねー」
「ま、色々思う所があったみたいよ」
「そうなんですか…」
プロか…
思わず僕は、しみじみと考えてしまった。
もし、トキドルが…ちゃんとメジャーデビューするって事になったら…
まず…LIVEやレコーディングが仕事になるわけだから…前飲みとか、出来なくなるよな…
メイクとか衣装とかも、ハルトさんじゃない人が担当になったりするんだろうし…
PVとか写真集なんかも、あんな風にショウヤさんの好き勝手には出来ないんだろうな…
何はともあれ…
仕事として、売れる曲なんて作れる気がしない…
あれは、ホントに…何かの拍子に、たまたま聞こえてくるもんだからなー
「…確かに…プロって色々めんどくさそうですね」
僕は、ふふっと笑いながら言った。
「だからアヤメさんとかも、手を出さないんだろ」
「…なるほど」
納得しながら…僕は、ハイボールをひと口飲んだ。
「てかもう…その話はやめよう」
言いながら…カイは煙草を揉み消すと…僕の肩を自分の方へ抱き寄せた。
「…っ」
カイの顔が、一気に近付いてきて…そのままの勢いで、僕の口は、彼のくちびるに塞がれた。
「…ん…」
そんな突然の口付けに…
僕の胸には、心地良い寒気が走った。
ほどなくカイの舌が、僕の口にグイグイと侵入してきて、僕の舌を激しく責め立てた。
「…っ…ん…んっ…」
心地良い寒気が何度も湧き上がり…それはやがて、じわじわと熱さを伴う快感となって、僕の身体から力を奪っていくのだった。
口元から唾液が滴ると共に…僕は両腕を、ダラーンと下に落とした。
カイに支えられなければ、自力で座ってもいられないほどに、僕はすっかり力が抜けてしまった。
それほどに、カイの口付けは激しかった。
ようやく、彼は口を離れた。
「……」
完全にフニャフニャになって、息を上げながら、ポーッとする僕を見て…カイは満足そうにニヤッと笑った。
「この上なく美味そうな顔になったな…」
「…」
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