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最後の個人的謝罪(5)

「…カオル?」 「…」 「おい…」 「…う…ん…」 カイに肩を揺すられて…僕は目を覚ました。 店の奥の、ソファー席に…寝かされていた。 「起きれそう?」 「…」 僕はゆっくり上半身を起こした。 「…大丈夫です…起きれます」 そして僕はカイに支えられて…何とかソファーから立ち上がった。 「歩けるなら帰ろう…送ってく」 「…はい」 それから、またカイに手伝われながら、何とか服もちゃんと整えて…僕らは一緒に、灯りの消えた店を後にした。 「…お腹は…空いてない?」 「あー…少し」 「何か買って行くか…それとも、食ってく?」 「…そうですね…あ、今…何時ですか?」 「あーこの時間じゃあ、ラーメン屋か牛丼屋しか開いてないかもな…」 「あはは…だったら、買っていきましょうか」 そういうわけで…僕らは、途中のコンビニで、それぞれ食べたい物とハイボール缶を買って、僕の家に向かった。 僕の部屋のあるビルの下で…カイは、少し白々しい口調で言った。 「じゃあ、気をつけて…」 「えっ…寄っていくんじゃないんですか?」 「…いいのか?」 「だって…カイさんも飲み物買ったじゃないですか」 ホントに白々しいなー 思いながら僕は、ふふっと笑って続けた。 「今日はカイさん独占の日ですから…最後まで一緒にいてください」 「…っ…じゃあ…お言葉に甘える…」 いつになく、顔を赤らめながらカイは言った。 僕は、ちょっと可笑しくて仕方なかった。 部屋で、座って…コンビニ食材を囲んで、僕らは改めて、ハイボール缶で乾杯した。 「身体は、大丈夫なの?」 「…大丈夫ですよ…いつもの事ですから」 「…」 少し心配そうに言う彼に…僕はしれっと答えながら、もぐもぐと食べ進めた。 「しっかし…サエもだけど、お前もよく食べるよな」 「…そうですか?」 「よく太んないな…」 「そのうち太ってハゲますよ…」 「あはははっ…」 他愛ない話をしながら、それらを食べ終えると…カイは、僕の隣にズリズリと擦り寄って、言い出した。 「今頃は…サエもあいつとヤってんだろうな…」 「…っ」 ふふっと笑いながら、冗談ぽくそう言うカイに向かって…僕は少し真剣な表情で言った。 「…僕は、ちょっとだけ…嫌です」 「えっ…」 「妬いてる…からなのかどうか…自分でもよく分かんないですけど…」 「…そうか」 「カイさん相手だったら…何とも思わないですけどね」 「…じゃあ、シルクだったら?」 「…」 僕はドキッとしてしまった。 以前…サエゾウがシルクの家に泊まったときの、あの何とも言えないヤキモキした感覚を、思い出した。 「…妬くんだろ?」 「あ、いや…でも…」 僕は、言い訳するように続けた。 「でも…それとその、ユウマさんて人に対する気持ちは…ちょっと違うんです」 「…ふうん?」 「たぶん…トキドルの人たちが…他所の人とするってのが…嫌なのかなあ…」 「…」 それを聞いたカイは、ふふっと笑いながら…言い包めるように、ゆっくりと切り返した。 「だったら…サエが、お前にお仕置きしたくなる気持ち…分かるんじゃないの?」 「…!!」 僕は、ハッとした。 そうか… そう言う事だよな… 言ったら…よっぽど僕の方が、皆に嫌な思いをさせてるって事だ。 シキさんのときも… アヤメさんの事も、何だかんだ言って、容認してくれるようになったし… 今回の事だって、僕の勝手で起きた事なのに… 日頃の自分の行いを思い返しながら…僕はシュンとして下を向いた。 「すいません…」 「いや別に、お前を責めてる訳じゃない…」 カイは、僕の頭を撫でながら続けた。 「むしろ感謝してるさ」 「えっ…」 「お前が、そう思わせてくれる事で…俺たちも進化出来るって…実感してるからね」 「…」 「しかも、当事者のお前も進化するだろ?」 「…」 カイは、ハイボール缶をゴクゴクと飲んだ。 「だから…今日も、サエがユウマさんと仲良くヤってくれてんだったら…サエ自身もまた進化するし…」 彼は、また僕の頭をポンと叩いた。 「妬いてるお前も進化するってわけだ…」 「…そう…なんですかね…」 ポソッと答えながら…僕もハイボール缶を口にした。 「さてと…」 カタッと音を立てて、缶をテーブルに置いたカイは…ニヤッと笑いながら立ち上がった。 「今回もお前に、散々ヤキモチ妬かされたからな…俺も、もうちょっとヤっとかないと気が済まない」 「…っ」 僕は…頬を赤らめて、彼を見上げた。 そして、少しだけ怯えたように目を潤ませながらも…強請るような口調で言った。 「カイさんの…気が済むまで…してください」 「…っ」 それを見たカイは、カッと目を見開いた。 それはまさに…まさに今、スイッチ入りましたーっていう感じがした。 「お前…それ、わざとやってんの?」 言いながら彼は、僕の両肩をグイッと掴んで立ち上がらせると…隣の部屋の敷きっ放しの布団に、ドサッとなだれ込んだ。 そして、僕の上に覆い被さったカイは…上から僕の目を凝視しながら続けた。 「ホントに…気が済むまで、し・て・いいんだな?」 「……」 小さく頷きながら… 僕はやっぱり、ちょびっとだけ後悔した。

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