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謝罪慰労会(1)
僕らは連れ立って…また散歩がてら、少し遠くのスーパーを目指していた。
途中、大きな公園に差し掛かった。
明るい健全な午前中の公園は…親子連れや、近所の年配の方たちで、そこそこ賑わっていた。
こんな時間にこんな場所の、長髪の黒い2人組は…
皆の目にどんな風に映ってるんだろうな…
少し、そんな事を考えながらも…
僕は、こうしてシルクと一緒に出掛ける事が、嬉しくて仕方なかった。
と…向こうの方から、ボールが、僕らの足元に、コロコロと転がってきた。
それを追いかけて、ヨチヨチ歩きの小さい男の子が、こっちへ歩いてきた。
僕はシュッとしゃがんで、そのボールを捕まえた。
そして、その男の子に向かって、そっとボールを差し出した。
「あーすいませーん!」
向こうから、お母さんと思われる女の人が走ってきた。
「…」
男の子は、少し戸惑ったようにしばらく立ち尽くしていたが…やがて、ゆっくり手を伸ばすと、僕の手からボールを勢いよく奪い取った。
「ほら、ありがとうでしょ?」
「…」
お母さんに言われて…男の子は僕に向かって、ニコッと笑いながら言った。
「…あいがと…」
「どういたしまして」
お母さんはペコッとお辞儀をして、くるっと振り向いて、歩き出した。
男の子は、ヨチヨチとその後を追いながら…何度も僕の方を振り返った。
僕は、彼に向かって手を振った。
彼もまた、手を振り返してくれた。
「何か…保育園の先生みたいだな…」
「あははっ…」
僕は立ち上がりながら答えた。
「言って無かったっけ?…実は保育園でバイトしてた事があるんだよ」
「ええーっ…そうなのか!?」
「保育よりは、調理の方が多かったけどね…」
「へえ…だからあれか、そこそこ料理が出来るんだな」
「仕事だったらね…」
「あー…家には茶碗も無いもんな」
「…っ」
そんな話もしながら…僕らはその公園を抜けて、よく行くスーパーに向かっていった。
「さてと…どうするかな…」
カゴを手に取ったシルクは、ブツブツと呟きながら、店内を物色していった。
「一応メインは、クリームシチューにしようと思ってんだけど…」
「えっ…ホントに?」
「あとは何がいいか…」
「パン!」
僕は即答した。
「あーはいはい…パンは自動的についてくる」
「やったー」
「やっぱりサラダかな…」
呟きながら、彼は野菜売り場で、ベビーリーフの袋を手に取った。
「トマトが残ってるし…カプレーゼにするか」
「いいと思う」
「あとは…ウインナーでも炒めるかな」
「あ、だったらコレも食べたいな…」
言いながら僕は、珍しく皮に包まれた状態の、ベビーコーンの束の入った袋を手に取った。
「…それ、どうすんの?」
「えっ…使った事ない?」
「うん」
「普通に中身取り出して、こんがり炒めたらいいと思うけど…?」
「ふうん…」
何となく怪訝そうな表情の彼に向かって、僕は続けた。
「分かった、それは僕がやるよ」
「ん、だったらいいよ」
それを聞いて僕は、いそいそと、そのベビーコーンの袋をカゴに入れた。
それから、バケットや、ウインナーやモッツァレラチーズ…シチューに入れる鶏肉なんかを選んでから、僕らはワイン売り場に来た。
「どれか好きなやつ選んで」
「…うーん」
言われて僕は、ズラッと並んだワインの棚を、じっくり見渡して…その中でも、ひときわ目を惹く、シルバーのラベルのついた緑色の瓶を手に取った。
「じゃあ、この…瓶がカッコいいやつにしようかな…」
「うん、いいんじゃない?」
「あ、小さいシュワシュワも買っていい?」
「どうぞ、好きにして…あんまり高くないやつで」
「わかった」
そして僕は、スパークリングの瓶もカゴに入れた。
慰労会って名目に胡座をかいて、お会計もすっかりシルクに任せてしまった。
まだまだ明るい、平日の真っ昼間の中…僕らはいつものように、ハイボール缶を飲みながら、家路についた。
シルクの家に戻った僕らは…早速手分けをして、仕込みを始めた。
「じゃがいもの皮…剥く?」
「うん…にんじんもよろしく」
「わかりましたー」
シルクはまず、鍋にお湯を沸かして、いったんブロッコリーを茹でてから…
そのブロッコリーを取り出した茹で汁に、玉ねぎ、ブロッコリーの茎、ローリエ…そして鶏肉を入れて、弱火にかけた。
「すごく丁寧に作るんだね…」
僕はポカーンとしながら呟いた。
ほどなく、何とも言えない良い香りが、辺りに漂ってきた…
「もう既に、クリームシチューの匂いするね…」
「そうだな…鶏肉の匂い…なんだろうな」
言われて僕は、鍋を覗き込んだ。
確かに…鶏肉と野菜だしの絡まった、美味しそうなものになっていた。
「僕は、シチュールウで作った事しか無い…」
「ふうん」
「あ、でも、ドリアとかのホワイトソースは作るよ!」
取り繕うように言い足した僕に向かって、シルクはしれっと言い放った。
「すげー言い訳するよなー」
「……」
僕はまた、何も言い返せなくなった…
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