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謝罪慰労会(3)
すっかりキレイに食べ終えて、手分けして片付けも終えた僕らは…キッチンで、それぞれ飲み物を手にしながら、他愛もない話を続けていた。
「まだ明るいな…」
「だって、起きてすぐ活動始めたからねー」
日の長い季節というのも手伝って…辺りはまだまだ昼間の明るさだった。
ま、僕らはすっかり出来上がっちゃってたけど…
「パスタは…食べるか?」
「食べる!」
僕は即答した。
「ホントによく食べるな…」
半ば呆れながらも…シルクは、また楽しそうに、冷蔵庫から色々と材料を取り出した。
既に酔っ払っているのに、ガンガン飲み足しながら…しかも楽しそうに鼻歌を歌いながら…料理している彼の姿を見れる事が、僕は嬉しくて仕方がなかった。
僕もまた、たまにトキドルの歌を口ずさみながら…またハイボール缶を開けてしまった。
ジューッと良い音とともに、にんにくの良い香りが、キッチン中…いや、部屋中に漂い広がっていった。
もう、それだけで…幸せになれる匂いだった。
続いて野菜とパスタが、手際良くチャッチャと炒められて…ほどなくトマトソースパスタが、白い大きな皿にこんもりと盛られた。
「うわあーヤバい…めっちゃ美味しそう…」
「あり合わせだけどな」
あり合わせ…といっても、何せ充実した主婦冷蔵庫なもんだから…ナスやきのこ、ズッキーニも入った、それはそれは具沢山な、美し過ぎる仕上がりだった。
とりあえず僕は迷わずそれを撮影した。
「いただきます…」
僕は両手を合わせて、深々と頭を下げながら言うと…食器棚の引き出しから、勝手にフォークを取り出して、それを食べ始めた。
「うんうん…うん…美味しい!!」
バクバクと食べ進める僕の横から…シルクは、味見程度にひと口分だけ、ちょこっと取って食べた。
そして、まあまあだなという表情で頷いた。
「シルクの作るごはんが、いちばん美味しい…」
食べながら僕は呟いた。
「たまにはお前が全部作る会もやって」
「サエさんちでは、いつも作ってるよ」
「何でウチではやってくれないの?」
「…だって…」
そこそこ料理が出来るっていう自負はあったものの…何もかも、本格的に丁寧に作るシルクには、全く敵う気がしなかった。
「…ルウとか、つゆの素とか使ってもいいの?」
「うーん…そういうのを使わない、お前の料理が食べたいな…」
「……」
それはとても面倒くさそうだ…
心の中で、うっかりそう思いながら…僕は黙々と食べ進めながら考えた。
そうだよな…
いつもいつも、シルクに甘えてばっかりだもんな…
たまには、僕がシルクを労う会もやらないと…
「よく食べるなー」
そんな僕を見ながら…既に、在庫のウイスキーをチビチビ飲み始めていたシルクが、またも呆れたような表情で…でも少し嬉しそうに言った。
「無理して全部食べなくてもいいんだよ?」
「わ、わかってるよ…」
ゴニョゴニョ言いながらも、箸が…いや、フォークが止まらなかった。
結局僕は、それもぜーんぶ食べてしまった。
「ごちそうさまでした…」
若干、恥ずかしそうに言いながら…僕は、その空っぽになった食器を、急いで洗った。
と、シルクは…
食器の洗剤を流している真っ最中の僕に、いきなり後ろから抱きついてきた。
「…っ」
そして、僕のお腹の辺りに手を這わせながら言った。
「うん…いっぱい食べたな…」
「……」
だから…このタイミングで、そこを触るのはやめて欲しいんだけどな…
洗い終えた僕は、水道の栓をキュッと閉めると…手を拭いてから、絡み付くシルクの腕を必死に解いて、彼の方を向いた。
そして僕は…改めて、正面から彼に抱き付いた。
「…」
「うーん…」
酔っ払いシルクは、僕をギューッと抱きしめると…何と、僕の身体を、そのままグイッと持ち上げた。
「わっ…えっ…無理無理、重いよっ…」
「…うんうん…」
ジタバタする僕にはお構いなしに…彼は、僕の重さを確認するように、しっかりと抱き上げた。
「全然軽い…」
「…っ」
「小鳥くらいだ」
「……」
だいぶ酔っ払っちゃったんだな…
思いながらも…僕は彼の頭に、しっかりと抱き付きながら…力強く持ち上げられる感触に、心地良く浸った。
「シルク…大好き…」
「…」
それを聞いた彼は、ストンと僕の身体を下に下ろしたかと思うと…さっさと向こうへ行って、バタバタと布団を敷き始めた。
「…」
ポカーンと立ちすくんでいた僕の腕を引っ張って…彼は僕を、敷いた布団にドサッと投げ倒した。
「…っ」
そしてシルクは、僕の上に覆い被さりながら…真剣な表情で言った。
「俺にも…ちゃんと謝罪して」
「…っ」
僕が答える間もなく…彼は勢いよく僕に口付けた。
「…んっ…」
その歓喜に酔いながらも…僕はコッソリ思った。
謝罪…済みじゃありませんでしたっけ???
何ならいちばん最初に…
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