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レコ発LIVE(2)

リハも、機材の片付けも終えて…僕らは、会場の外のドリンクコーナーに出て行った。 「あ、アヤメさん…こんな感じでいいですか?」 物販コーナーの準備をしていた、店のスタッフさんが声をかけてきた。 見ると…すでに光鬱のCDが、キレイに並べられて、小洒落たポップもついていた。 「ありがとうございます…とても良いです!」 アヤメはにこやかに答えた。 「スゴいなあ…」 僕は呟きながら…CDを1枚、手に取った。 レンが描いてくれたイラストのジャケットも…とてもカッコよくて良い感じだった。 「今日はこれがメインだからね」 「いっぱい売れるでしょうね」 「…」 スタッフさんにもそう言われて…僕は、嬉しい反面…少し複雑な気持ちになっていた。 だって、これ… 否が応でも、あの人達の目にも入っちゃうんでしょ 「今日もあいつら来るんだろ?」 「……っ」 僕の心を見透かしたように、アヤメは意地悪そうにニヤッと笑いながら言った。 「散々オマケみたいな言われ方したからな…」 彼は、スタッフさんがそこに居るにも関わらず…僕の肩に手を回しながら続けた。 「正々堂々、ウチのボーカルだって事…見せつけてやんないとな…」 「……」 あああ… これ以上、謝罪とかお仕置きとかっていう案件を増やしたくないんだけどな… そんな事を思いながら…僕は少し顔を赤らめて、下を向いてしまった。 「た、楽しみにしてますね…」 何となく気を遣ってか…スタッフさんは、ササッとその場を離れていってしまった。 「LIVE終わったら…今日は外に出ようと思ってる」 「えっ…」 アヤメのその言葉に驚いて、僕はサッと顔を上げた。 彼は、とても真剣な表情をしていた。 「自分の手で売るんだ…」 「…」 KY時代にも、ファンサービスを全くやらない主義だったアヤメさんが…まさかそんな事を言い出すなんて… それほどまでに、 光鬱に思いを寄せているんだな… 僕は、唇を噛み締めた。 そして、彼に言った。 「頑張り…ましょうね」 「ああ」 アヤメは、穏やかに微笑みながら、大きく頷いた。 LIVEがスタートした。 アヤメは、ずっと会場で対バンの演奏を観ていた。 僕は、たまにハイボールを飲みながら…会場とドリンクコーナーを、行ったり来たりしていた。 そして、僕らの2つ前のバンドが演奏している途中で…あの人たちが、やってきた… 「あれ、まだ準備してないのー?」 「あ、サエさん…」 ワラワラと、あの人たち5人が…次々とドリンクコーナーになだれ込んできた。 「あ、ありがとうございます…」 僕は、ササッと、若干不自然な動きで、物販コーナーの前に立ち塞がりながら言った。 「あ、それが…例のCDですね!」 ショウヤが、目ざとく見付けてしまった。 無駄な足掻きだった… 「へえーホントだ」 「どれどれ…」 「あーホントに、レンの絵だー」 あっという間に、5人は光鬱CD売場を取り囲んで…あーでもないこーでもないと、色々文句をつけた。 売場のスタッフさんが、思わず引いていた。 「カオル…そろそろ楽屋行くぞ…」 会場から出てきたアヤメが、僕に声をかけた。 「…あっ」 「…」 その声を聞いて、5人様はピクッと動きを止めると…それぞれが、ゆっくりとアヤメの方を振り向いた。 「また来てくれたんだ」 アヤメは、それはそれは清々しい笑顔で、しれっと言いながら、彼らに近寄っていった。 あああ… 刺されちゃうかも〜 「お疲れ様です…レコ発おめでとうございます」 他の4人が暴走するのを制するように…カイが一歩前に踏み出し気味に言った。 「ありがとう…今日も、いつもと違うカオルを見てもらえると思うから、楽しんでいってね」 「…」 「……」 目が笑っていない5人様を前にして…怯む様子を微塵も見せずに、アヤメは僕の肩を叩いて続けた。 「じゃ、行こうか」 「は、はい…」 そしてサッと振り返って、スタスタと歩いていく彼の後を追いながら…僕は、5人様に向かって思わず深々と頭を下げてしまった。 「相変わらずエラソーだよな」 「何かやっぱムカつくー」 「いやむしろ、清々しいわ」 「そうですね…だんだんと手強くなってきましたね…」 いつもは強気のショウヤが、珍しく真面目な表情で、そう言った。 「え、絶対大丈夫って言ってたじゃんー」 サエゾウは本気で焦っている様子で、そんなショウヤに詰め寄った。 「そりゃあ…大丈夫は大丈夫ですよ」 「だって、手強くなったってー」 「心配しないでください、サエさん」 ショウヤは、サエゾウの手を、ギュッと握り締めながら続けた。 「手強さで、サエさんの右に出る人はいません!」 「…」 「残念ながら、あんな去勢は…我らがトキドルには、足元にも及びませんよ」 「……」 「大いに楽しませてもらうとするか」 「…ふふっ…そうだな」 「楽しくなーい!」 まだブスッとしているサエゾウの耳元で、シルクはニヤッと笑いながら囁いた。 「その方がサエだって…お仕置きのし甲斐があるってもんだろ?」 「…!」 それを聞いてたサエゾウは… すぐにシャキッとして、キラーンと目を輝かせた。 「よーし、もし楽しくなかったら、その分めちゃくちゃお仕置きで楽しんでやるからー」 すっかり気を取り直したサエゾウを先頭に… 彼らはゾロゾロと、会場へと入っていった。

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