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ガルム×キサラギ 1.私と私

鏡を見て嫌悪感を覚えた。私は私ではない。そんなことを思う。 幼少期のころ私は被験者となった。もちろん私の意志ではないし、私がその事実を知らなかった。途切れた記憶の中にいる私がそのまま大人になったら…と思うと今の自分を認められないときがある。先代のアルガンティアの記憶も植え付けられたせいで私の記憶は混濁している。そのなかで私自身を作り上げないといけないなんて、まともに生きられるはずがないのだ。 「はぁ…。見た目だけでも変えた方が私は楽に生きられるのだろうか…」 蛇口をひねり冷水で顔を洗った。髪の先から水が滴り落ち服を濡らす。洗ったとしても醜い仮面は剝がれなかった。 ため息をついてしばらく鏡を見つめていたが今日は見ているだけで気分が悪くなるようで、私は諦めて寝台に戻ることにした。 一人用としては大きすぎるほどの天蓋のついた寝台はベッドメイクもされておらず今朝私が置いたバスローブが置いたままだった。今日は私が誰も部屋に入れたくなかった為使用人すら入れなかった。一人になる時間があったのはとてもいいことだがこの様子では格好がつかない。力なくベッドに倒れこんでそのまま目を閉じた。 いつか、この顔を捨てて新しい顔で生きられたら、とてもいいだろうな…。 ぼうっとした意識が少しずつ途切れ始めたと思った時、ドアの開く音がした。 「…?」 目を開けることすら億劫で、動きすらしなかった。歩み寄ってくる足音はかろうじて聞こえている。 「だらしがないな、”私”」 想定していた人物と違う声がして驚いて目を開けた。シュレイドか使用人かそのあたりの人だと思っていたのに。 「アル…ガンティア?」 薄暗い部屋の中で唯一光る間接照明に照らされた金色の義手が眩しい。瓜二つの見た目の”本物のアルガンティア”だ。 彼さえ居なければ私はこんな人生を送ることもなかったのだろう。だからといって今彼がここにいる以上私は向き合わなければならないし、現実そのものである。 「眠っていてもいい。私は顔を見に来ただけだ」 「同じ顔だろうに…」 そういう意味ではないと言われ、軽く笑われた。制止する間もなくアルガンティアが私の横に潜り込んできて布団を丁寧にかけなおした。意外な行動に驚いていると更に意外なことを言い始めた。 「疲れているんだろう?休め。休息もまともにとれん奴が上に立つべきではないぞ」 「…まさか気遣いに来たのか?」 「それもある。可愛がりに来た」 彼らしからぬというか…。そんな人だったのかという感想しか出てこない。抱き寄せられて頭を撫でられ、優しく微笑まれている。 「てっきり抱かれるのかと思ったが…」 「お前がそうしたいならいくらでもしてやる。だが今日は疲れているんだろう?」 今日は南の国カファロに雪が降るのではないだろうか??吹雪いていてもおかしくはない。 血も通っていないような男だと思っていたが案外優しいものだ。どうにも私を弟か何かと思っているらしく私には優しい。 「お休み、キサラギ」 ただ、今はそんなことはどうでもよかった。彼が優しいうちに眠ってしまおう。男二人が横になっても余裕のあるベッドだ、一人だと寒かったしちょうど良い。 「ああ…おやすみ」 私より低い声はなんだか落ち着く気がして眠たさが増した。明日は休みだったはずだが…。明日のことは明日になってから考えよう。

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