11 / 26
第11話
麻生さんと特別な関係になって半年。
そろそろ次のステップに進もうか、なんて考えていた時の事だった。
僕の前に突然、ひとりの男が現れたのは。
異動してきたその男は岡江優斗(オカエユウト)という名で、かつて麻生さんと同じ夜勤班だったらしく、麻生さんとの距離が物凄く近くて僕の癪に障った。
「麻生さん!今日飲みに行きましょうよ〜!!」
「今日か?いきなりすぎるだろ」
「え〜?麻生さん、前は夜勤明けの日は飲みに行ってくれてたじゃないすか〜!!」
更衣室で騒がしくしている岡江。
僕より年上らしいが、背も僕より小さく、顔立ちもどこか子供っぽくてそう思えなかった。
「前って、あれから何年過ぎてると思ってんだよ。俺ももう若くねぇんだって」
麻生さんが岡江を窘めながら僕を見る。
申し訳なさそうな瞳。
麻生さんにその気がない事が分かり、僕は安堵し、それと同時に思った。
この勘違い男に、麻生さんが誰のものなのかを分からせたい、と。
「麻生さん、飲みに行くんですか?僕もぜひ御一緒したいです」
「涌井……」
僕の言葉で周りがそれなら飲み会やりましょう、と盛り上がり、その夜は飲みに行く事になった。
最初のうちは父親に気に入られたいという連中に囲まれていた僕。
麻生さんはそんな僕の真向かいに座り、その隣には嬉しそうにしている岡江の姿があった。
僕はタイミングを見計らって席を抜け出すと、外に出て麻生さんに電話をかけ、麻生さんを呼び出す事に成功していた。
「抜け出すの上手いなぁ、お前」
黒のパーカーに黒いジーンズの麻生さん。
だいぶお酒を飲んだその顔は赤らんでいて、今すぐにでも襲いたいくらい可愛らしい。
「麻生さん……」
こんなに無防備で、僕の気も知らないで。
僕は人目も気にせず、その場で麻生さんにキスしてしまっていた。
「ちょっ……流石にここはマズイだろ……」
「僕は平気です。貴方との関係が知られたって構わない。むしろあの岡江とか言う人に知らしめたい、麻生さんは僕のものだって……」
「お前、岡江に嫉妬してたのか。あいつはただの後輩だって。お前とは違うよ、涌井」
僕の苛立ちを、麻生さんは怒らずに優しく宥めてくれた。
僕を抱き締めてくれて、背中を撫でてくれた。
「で、どうしたいんだ?」
「…………」
僕は正直な気持ちを口にした。
『麻生さんとふたりきりで一夜を過ごしたい』
そう言うと、麻生さんは、
「分かった。俺に任せろ」
と笑顔を見せて僕に言ってくれた。
ともだちにシェアしよう!