目の前には、異なる人間なのに、揃いも揃って同じつくりの三匹のひき蛙が、笑顔で並んでいます。 　幾度となく繰り返されてきたそれに、覚えたのは悲哀と既視感、応えを返す気も、溜め息を零す気も起こらず、時緒君は項垂れたようにまた顔を背けてしまいました。 　普段授業の回答以外に殆ど言葉を発さず、仮面のように表情を崩さない時緒君を、真面目で従順、今も怯えているとお友達は踏んだようです。 「大丈夫だよ、今ある分だけで。何なら、明日とか用意できるまでいくらでも待つよ。 俺ら頭が良くてお家も立派な時緒君と、ただ友達になりたいだけなんだよ。時緒君は、俺らの憧れなんだよ。 どうしたらいい？　無理強いなんかしないよ。ほんの、ほんの気持ちでいいんだよ。 少しでも時緒君のレべルに近づけるように、ほんの少し、俺ら仲良しになりたいだけなんだよ」 　時緒君からの『気持ち』を取りはぐれないよう、お友達は猫撫で声で、不思議な理論をこねくりました。 　そのため、気づいていませんでした。背けた時緒君の唇の片端が、ひび割れたかたちのように歪んでいたことを。 　小さな隙間風のような音が、ひゅっと漏れました。 　それが時緒君の捻れた笑声とは、お友達は感知できていませんでした。 「――お気の毒様……」 　眼鏡がダウンライトの光を白く映し、その中の眼の色は、見えませんでした。 　ただ、そのために却って、その下の唇の吊り上がりは、陰影を伴いお友達の目にもより鮮やかに視認されたのです。 「…………折角の頭蓋骨の隙間が台無しだ」 「……は？」 「隙間を埋める脳味噌も足らず、ささやかな趣味も、女と遊ぶ甲斐もなく、 やることが、放課後のトイレでこそこそカツアゲかよ」 「……」 「仲良しになりたいからって、どんな破綻だ。感心して悪寒がする。小学生の計算ミスの方が、まだ論理が通ってる。恋愛の誘いまで、奴等の方が上なんじゃないのか」 「……」 「そんな哀しいほど憐れで、滑稽なほど思考短絡も致命的な君達に……」 　メタルフレームのレンズが指で押さえられ、光が反転し、 つるりと白い、時緒君の憐れみをたっぷりと込めた笑顔が、昼白色のもと、冴え冴えとさらされました。 「お気の毒様」 　時緒君は、真面目で従順などではありませんでした。 　誰も近づけない頭脳を持っているがゆえ、皮肉と厭世、口から紡ぐ言葉の、ぶすりと針のように人の自尊を突くことに、これでもかと磨きをかけた、 　常備しているコンパスみたいに、ぴかぴかの、尖りに尖った男の子だったのです。 　ひき蛙の顔が蒼く、だけどこめかみの血管は、ぷくりと赤く膨れあがりました。