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3.2 一条新の事情(2)
内線で旭が一通り注文をしてやってから振り返ると、アラタが至近距離で待っていて飛び上がりそうになる。
「で、出たなら出たって言え。服、明日届くってよ」
旭はそう言ってから寝室へ向かった。
「それなら、今夜はどうすればいいんだろうか」
後をついてきたアラタが独り言のように呟いた。
「知るか! パンツ一丁で寝たら?」
旭はどかりとベッドに座ってアラタを睨む。自分で考えろという意味であり得ない提案をしたつもりなのに、彼は本気でシャツのボタンを外し始めた。
「おい、マジかよ」
「空調も効いているから、確かに一晩くらいなら裸で寝ればいい」
旭の制止も無視してアラタはシャツとスラックスを脱いだ。細身に見えていたのに、風呂上がりでしっとりとした彼の上半身には、意外と筋肉が付いている。
視線を下ろした先にあるボクサーを見て、旭は無意識に唾を飲んだ。αのそこは下着の上からでも分かるくらい大きい。発情期でもないのにそんなところを見て疼いてしまうΩの性に、旭は少し絶望した。
アラタはそんな視線に気付いた様子もなく、旭が座っているのとは反対からベッドに上がる。旭の背後で彼が横になった気配がした。
「お前ってさ、ホントにインポじゃねーの?」
気が付いたら思わずそんなことを口走っていた。
「違う」
「じゃ、発情しない普通のセックスはできるってことか」
「おそらく」
「おそらくってどういう意味だよそれ」
「やったことはないが多分できる、という意味だ」
「は? やったことない?」
思わず振り返ってアラタの顔を見ると、彼はゴロンと向こう側を向いてブランケットを被った。
「人気者のαなら、女なんていくらでも――」
そこまで言ってから、彼がαだと発覚したのがつい最近だったことを思い出す。しかしβだったとしても、彼の整った顔や長身を考えると、この外見年齢で未経験というのは意外だった。
「あんた何歳?」
「……二十、九」
「ふーん」
確かに彼の無表情は近づき難い上、性格はかなり内向きで難がありそうだ。これでもし仕事が低収入だったとしたら、女が寄ってこないのも無理はないかもしれない。
未だ不可解な点の多い男を旭はしげしげ見つめる。電気の消えていない室内では、彼の耳が赤くなっているのも見えてしまった。
あの無表情なαが照れているという事実に、旭は少し気分が良くなった。
「なら……俺がインポじゃないか確かめてやろうか?」
そう言うや否や、旭は彼のブランケットを引き剥がした。彼の背後から下着の前に手を這わせ、その中に納まっているモノを布越しに捕まえる。まだ勃ってもいないのにそこはズッシリとしていた。
「アラタ」
名前を呼んでやると、彼は面白いくらい身体を硬直させた。
「次の発情期までにさ、名前で呼んで仲良くなってた方が欲情するよな? それに童貞なら刺激の強いことにも少しずつ慣れとかないと」
やわやわと下着の膨らみを撫でてやると、彼はついにガバリと身を起こした。
「君、は――」
「旭」
赤くなっている男に向かって、旭は妖艶な笑みを浮かべた。
「あさ、ひ……」
魔法にかけられたかのように、アラタがたじたじと名前を呼ぶ。その隙に旭は彼の股間に手を伸ばした。身体を起こしてくれたおかげで、堂々と正面から彼のそこを見ることができる。
「ちょっと触っただけなのに……」
芯を持ち始めた茎を布越しに優しく擦ると、そこには徐々にくっきりとした形が浮き出てきた。
「すご……どんどんでかくなる。すぐ先っぽはみ出すんじゃねーの?」
口ではそんなことを言ってからかっていても、旭は内心この布の中身が早く見たくてうずうずしていた。ちらっと上目遣いでアラタを見ると、彼は真っ赤な顔をしながらも、旭に触られているところを凝視している。
「さすがに一人でオナった経験くらいはあんだろ?」
「それは――」
言い淀んで視線を彷徨わせているのはイエスの表れだ。
「どんなオカズで抜いた?」
彼は答えようとしない。罰と言わんばかりに下着を引き下げてやると、ゴムに一度引っ掛かった先端がぶるんと顔を出した。
「こんな立派なもの持ってるのに未使用とはね」
旭が亀頭に触れると、アラタが息を呑む気配がした。旭は彼の先端を軽く捏ねくり回してから竿の方へと手を這わせる。布越しではなく直に触れた欲望は熱く脈打っていた。
「こんな太いのでかき回されたらどんな女も泣いてよがるだろうに……もったいないな」
両手で包んで扱くと、そこはまだまだ固くなった。先端の割れ目からカウパーが滲み、αのオスの匂いに旭の身体の奥が熱くなっていく。
コレがほしい。この大きなモノを入れられて、亀頭球でノッティングされたい。αの濃い精液で種付けされて、αの子を孕みたい。
旭の意識など全く無視して、内なるΩの本能がそう叫んでいた。
熱に浮かされたようにうっとりとアラタの昂ぶりを見ていた旭は、おもむろにそこへ顔を寄せると、先端をぱくっと口に咥えた。
「あ、旭……?」
戸惑うアラタを目だけで見つめ、旭は口に含んだ先端にちろちろと舌を這わせた。大きすぎて全部を口に含めないからこそ、先の方ばかりを重点的に責める。汗なのかカウパーなのかも分からない味が口の中に広がって、旭は無意識に自身の腰を揺らめかせていた。
「ん……おっひぃ……」
咥えたまま旭が喋ると、彼のそこは我慢の限界を訴えてピクピク反応した。じゅぷじゅぷとわざと音を立てて吸い上げ、さらに興奮を煽っていく。
先端に思い切り舌を押し付けたその時、旭は勢いよく突き飛ばされて咥えていたモノを離してしまう。次の瞬間、旭の顔には白いものがドロリと付着した。
「す、すまない――」
アラタが慌ててベッドサイドにあるティッシュに手を伸ばす。旭は頬を伝う白い液体を指で掬い、顔に出されたことを自覚した。
「うわ、何だこれ、めちゃくちゃ濃い……溜まってた?」
アラタは何も言わずに甲斐甲斐しく旭の顔を拭いていく。
「こんな濃いのだったら、俺ももしかしたらやっと孕めるかも……なんてな」
そう言い残してベッドから降りようと膝立ちになると、アラタは素早く旭の腕を掴んで引き留めた。
「何だよ、顔洗いたいんだけど」
旭は平静を装ったつもりだったが、アラタの手が旭の股間に伸びてきて、その中心をぎゅっと握られてしまう。
「旭も勃ってる」
気付かれていた――旭の脈拍が急上昇していく。
「さっきも腰が揺れていた」
彼はそう言って旭のハーフパンツと下着を易々とずり下ろした。
「だ、駄目……だって」
旭は力なく制止しながら、上向いた自身の股間を手で隠そうとする。生殖能力のないΩの性器はβ男性の平均より小さい。旭にとって、そこを見られるのは屈辱だった。しかしアラタは旭の手を払いのけて、先程旭がしたのと同じようにそこを口に含んだ。彼は旭からされたことをそのままそっくり真似して、旭の先端を舌先で嬲る。
「……や、め……」
彼の大きな口に旭のそこは根元まですっぽり咥え込まれてしまう。熱い舌が竿全体にねっとり絡みついたかと思えば、今度は先端の弱い部分を甘く吸い取られる。旭は熱い吐息を噛み殺しながら、ぎゅっと目を瞑った。
ムカつくαが童貞でちょっとからかってやろうとしただけなのに。何でこんなことに――!
旭は悔しさと羞恥と快楽の間で悶えた。
「……っも、や、だ……ぁ」
アラタが子供のようにちゅぱちゅぱとそこを吸う音すら淫靡に聞こえる。ちらっと瞼を開けると彼と目が合ってしまい、旭はぶるっと身体を震わせて達した。
アラタは何も言わずそのままゴクンと出されたものを嚥下する。旭のモノからやっと口を離した彼は、指で唇を一拭いした。
「な、なにすんだ、ヘンタイ……!」
旭は慌てて半分ずり下がっていた下半身の衣服を戻した。
「先にこういうことをしてきたのは君の方だ」
「そ、そうだけど……!」
「嫌いなはずのαにどうしてこんなことを?」
痛いところを突かれ、旭はぐっと喉を詰まらせた。
「そんなの、お前が童貞だから、からかってやるつもりだっただけで」
「しかし君自身も興奮して勃起していた」
執拗な追及に耐え切れず、旭はついに爆発した。
「どうせ俺はαのチンコに弱い淫乱Ωだよ! 嫌だけどどうしようもないんだ。身体が勝手に疼く。それがΩって生き物だ」
「それは、君がそう思いたいだけなんじゃないか? Ωだから仕方ないと――」
「お前に何が分かるんだ。発情して心が身体に支配された経験もないくせに」
αなど憎くてたまらないはずなのに、発情期に入るとαを甘く求めてしまう――あの屈辱がαに分かるはずもない。
旭はキスしそうになるほどの至近距離までアラタに顔を寄せる。
「教えてやるよ。身体の欲求に逆らえなくなる感覚も、初めてのセックスも、次の発情期で俺が全部教えてやる」
アラタが居心地悪そうに目を逸らしたのを見て、また少し優位を取り戻す。旭は硬直する彼を置いてベッドを降りた。
次の発情期までおよそ二週間。あの男がどんな風に発情して自分を犯すのか、想像するだけで旭の中心がずくずく疼いた。
とりあえず彼に出された顔を綺麗にしようと洗面所で顔を洗った旭は、タオルで顔を拭いた後、鏡を見てビクッと肩を震わせた。
「だから! なんで! どこでもくっ付いて来るんだよ!」
鏡の中、半分開いたドアの隙間でアラタはじっと旭を見ている。
「旭がちゃんと寝室に戻ってくるか気になって」
「なんっなんだホント! そんなに俺と一緒にいたいわけ!?」
自棄糞になった旭の言葉に、あろうことかアラタはこくんと頷いた。真っ赤になった旭がスタスタと寝室へ戻る間、アラタは母鳥を追う雛のようにその後を追いかけた。
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