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11.2 疑似行為

 身体を覆う布を取り払うと、旭のそこが既に次の発情に入っているのは明らかだった。 「旭はどうするのが楽になる?」  アラタはギシリとベッドに上がりながら尋ねた。 「手で擦るのは痛くなる。あと、あんまり何度も分けてイキすぎても疲れる……」  恥を忍んで正直に言うと、彼は「分かった」と言って旭の股間に顔を寄せてきた。止める間もなく、旭の震える屹立は彼の温かな口内に包まれる。 「ぁ、ふ……」  アラタは旭の快感を追い上げるわけでもなく、ゆるゆると茎に舌を這わせた。まるで痒みのように疼く快感を宥めつつ、かといって激しく煽るようなこともない。燻る欲求をいなすにはちょうどいい塩梅だった。  しかしずっと彼に口で奉仕させ続けるのも悪い。それに何より、前だけでなく後ろも濡れそぼって刺激を求めていた。  旭は下腹部にあるアラタの髪にそっと指を通し、彼の注意を引いてみる。彼は顔を上げると小さく首を傾げた。 「うし、ろ……」  旭は明確にねだることもできず、代わりにベッドサイドにある棚の一番下の引き出しを示した。本当は見られたくないのだが、背に腹はかえられない。  アラタは一度ベッドから降りてその引き出しを開けると、ぴたりと固まった。その反応だけで旭は消え入りたくなってしまう。  アラタが一つそこから取り出したのは、大きく太い男性器を模した玩具だ。旭はいつも発情期を乗り切るための道具をその引き出しに隠していた。  やっぱり、ドン引きだよな……。そんな冷たい目で見るな、クソッ。  アラタは手の中にあるピンク色の棒をしげしげと観察してから、取っ手にあるスイッチを押した。すると、静かな部屋にウィーンウィーンという機械音を響かせながら、ピンク色の竿がくねり出す。アラタはおたおたしながらもう一度スイッチを押して動きを止めた。 「旭、これ、は……」  旭は片腕で顔を隠し、バイブを受け取るためにもう片方の手を差し出した。しかし彼はそれを旭に手渡すことなく、しどけなく投げ出された旭の両足の間に身体を滑り込ませた。 「な、ちょ……」  制止の声など聞こえていないのか、アラタは手の中の玩具と旭の後孔を交互に見てごくりと唾を飲んだ。  そういえば、こいつに後ろ弄られたことないかも……。  唐突にそんなことを考えていると、彼は極太のバイブを旭の入り口に当てた。 「っ、すぐには入らないって、少しは広げないと」  彼が選んだのはよりにもよって一番太いバイブだ。おそらくそれが引き出しの中で最も目に付いたのだろう。いくら旭が慣れていて濡れているといえど、いきなりそれを入れるのは困難だ。  旭は自身の指でそこを広げようと手を伸ばしたが、それをアラタの手が阻んだ。一旦玩具をベッドに放り出した彼は、自身の指をチラッと見てから、旭のそこへと震える手を伸ばす。発情はしていないと言っていたが、アラタの顔は僅かに赤みを帯びている。  そんなことに気を取られている隙に、骨ばった人差し指がとろりと濡れた旭の内部に侵入してくる。慣れないことに緊張しているのか、彼の指はぎこちない。しかしだからこそ、それが旭の快感を煽った。 「っぁ……ん、も、もっと……」  遠慮して入り口付近から奥へ進んでくれないため、旭は彼の手首を掴んでもっと深く、もっとたくさんの指を差し込むように誘う。淫乱だと思われているかもしれないが、ここまで来てしまえばもうそんなことには構っていられない。三本に増えた彼の指が奥まで達すると、旭はびくんびくんと身体をしならせた。 「ふ、ぅ、ん……っ」  アラタの指を旭の内壁はきゅうっと締め付ける。彼は相変わらず恥じらうような顔で、そろりそろりと旭の中の指を抜き差しし始めた。控えめに内壁を擦られるたび、透明の蜜がくちゅりくちゅりと音を立てる。足を広げた旭の秘所に、アラタの視線をひしひしと感じた。 「っ、ふ、ぅ……見る、な……聞くな……っ!」  イヤイヤと首を振った瞬間、誰にも触られていない旭のモノからほとんど透明の液体が少量飛び散った。 「は、っ……は、ぁ」  息を整えながらちらりとアラタを盗み見ると、彼は旭の下半身をぼうっと見ていた。彼はぬるりと指を引き抜くと、放置してあったバイブを手にする。 「旭、入れていいか……?」  そう言われて、旭は思わず玩具ではなくアラタの股間の方を見てしまう。その視線に気付いたらしい彼は、大慌てでそこを隠した。  何だよ、それ……本物は使ってやらないぞって意味か?  不貞腐れた旭はぷいっと顔を背けた。 「あさ、旭、違うんだ。これは、その……」  唐突な言い訳――旭は不審の目を向け、そこでやっとアラタの股間が少し膨らんでいることに気付いた。 「勃ってんじゃん……ラットに入ったのか?」 「そうではないんだが、何というか、その――」  彼の言葉は何とも歯切れが悪い。赤面して狼狽える初心な反応を、じっと観察した。 「ヒートで発情はしないが、普通の生殖機能は生きているわけで、だから、その、いやらしい光景を見るとこうなるのは必然であって――」  いやらしい光景と言われ、思わず彼から見える景色を想像してしまった。緩く開いた足の間、愛液を滴らせながらひくつく蕾も、何度も勃ち上がる茎も、何もかもが丸見えなのだ。アラタだけでなく旭までつられて頬を赤らめた。  勃ってるんだったら、あっちが欲しい。冷たいバイブなんかじゃなく、もっと熱くて太いこいつの――。  そこまで考えてしまってから、旭はぶるっと首を振った。なぜだか分からないが、そんな慰めのために彼の初めてを奪うことに罪悪感を覚えている。  俺、どうしたんだ? 憎いαの大事な初体験をΩの俺が奪ってやれ、それでさっさと追い出してやれ――そう思ってたはず、なのに。  旭の頭の中には、この半月ほどの間に見たものがいくつも浮かび上がった。  初めての人と仲良くなっておきたいと告白する彼。医師からの陰湿な行為から守ってくれた時の彼。うやうやしく傷口を手当てしてくれた彼。そして先程から旭の発情を治めるために献身的に奉仕を続ける彼。  思い出せば思い出すほど、旭の中にあるαへの怒りや憎しみが薄れてしまう。こんなにも純粋で優しい男の初めてを、自分のような汚いΩで消費させていいのだろうか――胸の奥がちくりと痛んだ。 「旭、その、俺のことは気にしなくていい。今は旭を楽にする」  そう言われてすぐ、アラタの持ったいやらしいピンク色の作り物が挿入される。にゅるりと一番奥まで差し込まれてから、もう一度内壁を擦りつつ外へと引き抜かれる感覚。しっかりとカリの形まで再現された玩具は、抽挿のたびに旭の中のとろりとした液体を外へと掻き出していく。そのせいで旭の秘所からは愛液が零れ、双丘の間の谷間まで濡らしていた。 「ふぁ、あ……ちが、もっと、あっち……」  旭は譫言のように喘ぎながら、アラタの手を持って自分の前立腺を教えようとする。しかしその時誤って取っ手部分のスイッチを押してしまい、旭の中で急に太い無機物がぐねぐねとうねりだしてしまった。 「っひ、ぁ、あ、ん……っ」  甲高い声が思わず漏れ、慌てて自身の口を手で覆う。手探りでスイッチを止めようとするも、アラタはうねるバイブをそのまま旭の中でぐりぐりと回転させた。 「い、や……だ、止め……んぁ」  そこまで言ったところで、旭は爪先を痙攣させて何度目か分からない絶頂を迎える。ほとんど何も出さずにびくんびくんと震える旭を見ながら、アラタは自身の前を寛げた。旭は朦朧とした意識で彼のそこを見る。触れられてもいないのに張り詰めた彼のモノを見て、旭の身体はすぐにいやらしく疼いた。  欲しい。やっぱりアレが、欲しい。  いや、駄目だ。耐えろ。  どうして? あいつだってきっと俺が好きだ。  旭は葛藤の末に弱々しく彼に手を伸ばすが、彼はその手をやんわりと退け、旭の中で未だ蠢く玩具に手をかけた。  拒まれた――快楽とは違う何かのせいで目頭が熱くなる。だがそんな旭には構わずに、アラタはまた乱暴にうねる無機物で旭の中を蹂躙した。  イッたばかりだというのに、発情期のΩの身体はすぐにまた反応を見せる。玩具に掻き回されるたびに旭の中はじゅぷじゅぷと空気の混じった音を出し、旭の前はもう何も出ないというのにピンと上を向いて勃ち上がった。 「ぁあ、っは……ん」  ぎゅっと目を閉じて、バイブの動きで前立腺を擦られながら嬌声を上げる。その中でふと、アラタの息遣いが荒くなっていることに気付いた。  そろりと目を開けて彼を見ると、旭の中をバイブで弄りながら、もう片方の手で彼は自分の屹立を慰めていた。玩具が旭の中を出入りするタイミングで、彼も自身のそこを扱いている。こうすることで、彼はあたかも自分が挿入しているかのような感覚を得ているのかもしれない。そんな倒錯したことを考えてしまうと、旭も自身の中にある物体が彼のモノであるかのように感じ始めた。  もう一度瞼を閉じて下腹部で暴れる大きなものに神経を集中させる。  これは、あいつの……。俺は今、アラタに犯されてる……。  たったそれだけの想像で、旭の内壁はぎゅっと搾り取るように異物を締め付ける。そうすれば、今にもこの中の太いものが爆発して熱い液体を注ぎ込んでくれるような気がしたからだ。 「あらた……っ、あら、た」  真っ暗な想像の中で彼の名を呼ぶ。すると余裕のない苦しそうな声で「旭」と聞こえ、下腹部にどろりとした何かがかけられた。出されたのが内側なのか外側なのかも、今の旭には定かでない。ただその温かな感触に、旭もまた全身を震わせて達した。

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