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番外編: 大きな子供の独占欲
「はーい、お口開けてー」
旭の声に合わせて、ベビーチェアの上のミライがぽかんと口を開く。軽くスプーンを入れてやると、ミライはそれをぱくりと咥えた。スプーンを引き抜いた旭は、モクモクと動く小さな口をじっと見守る。
「おいしい?」
口の周りを汚したまま、ミライが「まー」と声を上げる。どうやら今朝は機嫌がいいらしい。
「今日は初節句だからなー。お昼頃伯父さんも食事に来てくれるから。はい、もう一口」
彼が食べているのは今朝方アラタが作ったお粥だ。離乳食用にこれまで十倍粥、七倍粥とレシピを教えこんできた甲斐あって、アラタは今や離乳食作成マシーンと化していた。
プラスチック製の器から再度お粥を掬おうとした時、ちょうどリビングにアラタが顔を出した。
「げっ」
旭が思わずそう漏らすと同時に、ミライはムッと口を閉じてしまった。
「旭、洗濯の次は――」
「離乳食あげてる間は顔出すなって言っただろ?」
旭がスプーンを口元に運んでも、ミライはプイと横を向いて食べようとしない。アラタがいるといつもこうなってしまうのだ。
「お前がいつも離乳食だの乳離れだの強制するからいけないんだ」
「あんなに完璧にお粥を作ってやってるのに、何が気に食わないのか理解できない」
「ミライからしたらお前は、おっぱいを取り上げようとする鬼に見えてんだろ」
「ミライはミルクより美味しい食事が取れて、俺は旭の胸を取り戻すことができる。一石二鳥のはずなのに――」
アラタの言葉はそこでミライの泣き声にかき消される。ついさっきまではご機嫌だったのに、急にやってきた天気雨のようだ。
「あー、はいはい」
旭はベビーチェアからミライを抱え上げると、汚れた口元を手早くガーゼで拭き取った。抱っこをされて少し大人しくなったミライだったが、まだ旭の肩越しにアラタをジッと睨んでいる。
「ほら、まだお腹空いてんだろ? せっかくの初節句なのに気分が台無しだよな」
旭がリビングのソファに座って胸元を開けてやると、ミライはすぐにそこへと吸い付いた。
「そういえば、お前が見てると粉ミルクも飲まないんだよな」
「分量も温度も最適に作っているのに、おかしな話だ」
「何とかして俺とミライを引き離そうって魂胆が見透かされてんだよ」
アラタはフンと鼻を鳴らして別のソファに座った。旭の胸を吸いながらも、ミライの視線はアラタに釘付けになる。まるで割り込みを警戒するかのように。
「はあ……もうミライの食事中はお前リビングダイニングキッチン立ち入り禁止な」
「酷い……」
ずーんと暗い空気を纏ったアラタは、携帯を手に大きな図体を小さくする。
「産後、妻OR夫、冷たくなる」
「検索ワード声に出すのも禁止だ、馬鹿」
旭がそう吐き捨てると同時に、ミライも「ばー」と声を出した。
「あれ、もういいのか。まあ結構お粥食べてたしな。まんま、おいしかった?」
「まー」
ミライは嬉しそうに旭の顔へと手を伸ばす。
「まーは、まんま、ご飯のこと。俺はパパ。ママじゃないからな」
「まー!」
「パーパ」
懸命に言葉を教えようとする旭を見て、アラタがぼそりと呟く。
「旭、言葉を教えるのはまだ早いんじゃないか?」
「離乳食を急ぐお前に言われたくない」
「あんまり急かすと旭もミライに嫌われるかもしれない」
「そんなことあるわけないだろ、馬鹿」
「ばー」
ミライはそう言いながら、片手をアラタに向けていた。
「……ミライ、あの人は?」
旭に聞かれると、ミライはまた「ばー」と言葉を発する。
「旭、もしかしてミライは俺の名前を『馬鹿』と認識してないか?」
「いやいや、これは、パパが発音できないだけで……そうだよな?」
「ばー……」
アラタとミライは、互いをじっとりと睨み合う。
「お、お散歩行こうかー! ほら、ご近所におっきな鯉のぼりがあったから。うちの鯉のぼり小さくてごめんなー」
シャツの前ボタンを素早く締め、旭はミライを抱えてそそくさとリビングを後にした。
***
五月の爽やかな風の中、旭はミライを抱いて歩みを進める。
「ほら、あそこ、見えるか?」
旭が指差す先では、風に煽られた鯉が空をゆらゆらと泳いでいる。何も返事はないが、ミライは口を半開きにして食い入るように空を見つめていた。
「今日はこどもの日、ミライが主役だからな。伯父さんもミライのために五月人形くれたし……あ、帰ったらアトリエの紙で兜でも作るか」
そこまで言ったところではたと足を止める。今日はこどもの日――アラタの誕生日だ。分かってはいたが、子供の初節句ということでバタバタしていたため、彼のための準備は何もできていない。ミライが生まれてからというもの、確かにそっちにかかりきりで、アラタの優先度が下がっていたかもしれない。
「なー、ミライはもう一人のパパ……アラタのこと、嫌いか?」
「あー?」
「あ、ら、た。ミライが食べてるまんま、作ってくれてる人。ミライが来てる服、洗濯してくれてる人」
こうして考えてみると、アラタはかなり子育てに協力的だ。子供用の服、おもちゃ、哺乳瓶、お皿、離乳食用のスプーン。全部彼が調べて買ってきたものだった。
「あいつ、確かに大人気なくお前と張り合ってるかもしれないけどさ、あいつはお前のことすごく大事にしてると思う。だってお前は――」
その先を言いそうになって、旭は思わず顔を赤くした。すると、ミライがいきなり「ぶふー」と旭の顔に息を吹きかける。まるで親の惚気話に抗議するかのようで、旭は思わずクスリと笑った。
「ちょっとだけ買い物してくけどいいよな? 挽肉がないんだ。今夜オムライスにしないと、あいつ拗ねるからさ」
ミライを抱き直して歩き出そうとするが、「うーうー」という声とともに引き止められる。何かと思えば、道路脇に咲き誇るツツジが気になるようだ。
「うん、お花が綺麗だな」
ミライは身を乗り出してピンク色の花弁に手を伸ばす。
「こら、咲いてるの取ったらダメだろ。あ、こっちのならいいか」
ポロリと落ちた花が葉っぱに引っかかっている。拾ったそれをミライの目の前で見せてやると、小さな掌が必死に奪い取りにきた。
「ダーメだって。お前何でもすぐ食べようとするだろ」
言い聞かせても手をジタバタさせるどころか、目を潤ませて公道で泣き出しそうになっている。
「あーっ、もう! 口に入れたらダメだからな」
旭は念を押してから、小さな手にそっとツツジの花を握らせた。
***
「ただいま」
「まー」
玄関で声をかけてもアラタは姿を見せなかった。リビングの隅、五月人形の前に敷いた布団にミライを寝かせ、家の中を回ってみる。しかし寝室にも書斎にも彼の姿はない。
他に彼のいそうな場所があるか廊下で考えていると、アトリエのドアがギッと開いた。
「あ、いた。そんなとこで何してたんだよ」
彼の手にあるものを見れば、旭の疑問はすぐに解消された。
「作った」
彼が見せてきたのは、大きめの白い紙でピシリと折られた兜だった。少しのズレも許さない完璧な作りだ。
「うん、帰ったら俺も作ろうかなって思ってたとこ」
微笑む旭にアラタが兜を押し付ける。
「俺にじゃなくて、ミライに作ってやったんだろ?」
「俺が渡してもミライは喜ばない」
「そういうこと言ってるからお前ら険悪なんだよ」
強引にアラタの手を引いてリビングに戻ると、布団の上に寝かせたはずの息子が忽然と消えていた。
「いない!?」
確かにうつ伏せで這いずることはできるが、そう遠くまで行けるとは思えない。
「旭、あそこに」
アラタが示したのは少し離れたソファの脇。ソファ上の買い物袋の取っ手を掴もうと、ミライが短い手を伸ばしていた。
「あそこまでハイハイした……?」
「また行動範囲が広まったな」
アラタの一言に心労が増えそうになったが、今は子供の成長を喜ぶことにする。
「ミライ、いつの間にハイハイなんて覚えたんだ?」
苦笑しながら褒めても、彼の視線はソファの上から動かない。
「この買い物バッグ? あ、これか」
旭は手を突っ込んで、中からピンク色の花を取り出した。
「何だ、それは」
「さっき道で拾ったツツジ」
旭は続けて袋の中から一つ二つと花を取り出していく。
「落ちてる綺麗目のやつを見かけるたびに、ミライがうーうー言うから」
床の上に集めた花を五つ並べてやると、ミライはぺたんとうつ伏せになって満足そうに笑った。
「あ、そうだ。ミライ、今日はアラタの誕生日なんだ。そのお花、一つあげたら?」
旭が赤いツツジをひょいと摘むと、ミライの顔が露骨に歪んだ。
「……嫌なんだな」
分かりやすい反応に、旭はスゴスゴと花を元に戻す。
「そうだ、今日はこどもの日だから、アラタからミライにプレゼントがあるんだってさ」
抱え上げたミライをアラタと無理矢理向かい合わせる。口だけでアラタに「ほら」と言うと、彼はそろりと紙の兜をミライに差し出した。
「渡されたって分かんないだろ。ちゃんと被せてやれよ」
言われた通り、アラタは髪の薄い小さな頭に兜を乗せる。
「おー、ぴったり。あっちの五月人形の前で写真撮ろう」
立ち上がろうとしたその時、ミライが床に散らばる花に手を伸ばす。
「ん? 花持って撮りたいのか?」
ミライは薄いピンクの花を選んで持つと、その手をアラタに向けてずいっと突き出した。
「……アラタにあげるってさ」
旭が笑うと、アラタはおずおずとその花を受け取った。彼の大きな手に移されると、薄桃色の花が急に小さくなったように見える。
「随分アッサリくれるんだな」
「だー、ぶー」
「なるほど、兜とツツジの物々交換か」
「ぶーぶー?」
アラタもミライも神妙な顔をして、成立しない会話を続けている。
「そんな難しい言葉、まだ無理だってば。ミライ、アラタにお誕生日おめでとうは?」
「おー?」
首を傾げるミライに、旭の頬が思わず緩む。
「ほら、おめでとうって言ってる」
「……最初の文字以外ほとんど言えてない気がするが、残りの誕生日祝いは今夜旭にしてもらおう」
彼の言葉が含むところを察し、旭は一人赤面した。
***
夜の八時。
「あー、寝た。寝てくれた」
ベビーベッドのある寝室を出て、旭はふうと息を吐く。昼に伯父を迎えての食事会があり、ミライの昼寝のリズムが狂ったが、何とかいつも通りの時間に寝てくれた。後は夜泣きがないことを祈るばかりだ。
階下のリビングに戻ると、アラタが五月人形の前に立っていた。風呂上がりらしく肩にはタオルがかかっている。最近の旭は風呂もミライにつきっきりで、アラタがいつバスルームを使っているのかも意識していなかった。
「これ、明日にでも片付けないとな」
旭の声に、彼がゆっくりと振り向く。
「旭の伯父さんにも、今度もう一度お礼に行かないと」
「俺が伝えとくからいいよ」
「……旭は忙しい」
少し拗ねたような声色に、旭は小さく笑った。
「忙しいけど、お前が手伝ってくれるから平気」
泣いてぐずるミライに、旭の生活は全部支配されてしまっている。しかし、アラタがいなければもっと大変だっただろう。
「あんまり言う機会ないけどさ、助かってるから……あ、ありがと」
耳まで赤くなっているのは自覚している。旭は慌てて次の話題を探した。
「ミライだってお前に感謝してる」
「どうだか」
「だってアレ、貰えただろ」
旭の示す先には、五月人形の左にちょこんと置かれた薄ピンクの花。落ちた花弁を拾っただけなので、きっとすぐに萎れてしまうだろう。しかし、アラタがこの日を忘れることはないはずだ。何年か後に「こんなことがあったんだよ」と、大きくなったミライに写真を見せる日がきっと来る。
「旭からは何も貰えてない」
「夕飯のオムライスは?」
「……まだ足りない」
予想通りの言葉。彼が何を欲しがっているのかも分かっている。
旭はアラタの袖を引いて屈ませると、彼の唇に自分のそれを思い切り強く押し付けた。
まだ春なのに、このリビングは気温も湿度も真夏のように蒸し暑い。
一糸纏わぬ姿で抱き合うと、アラタの身体もしっとりと汗ばんでいた。お互いの下半身は既に熱を持って固くなっている。脱ぎ散らかした服をソファから蹴落としつつ、旭はアラタからのキスの要求に応えていた。
「……っは、はぁ……今日はお前の誕生日なんだから、どうして欲しいかお前が言えよ」
「旭が欲しい」
「それは分かってるから……っ」
その瞬間、旭の身体がソファに仰向けに押し倒される。
「旭が欲しい。誰にも邪魔されずに、俺だけを見て欲しい」
まるで子供のワガママだ。それなのに、至近距離で見下ろされながらはっきりとそう告げられると、心臓が煩くてたまらなくなる。
「ん……分かってるよ」
「いや、今ミライが泣いて呼べば、旭はきっと俺を放り出して二階へ行く」
旭の両足を開き、アラタは熱い塊のようなものを旭の入り口に押し付けた。
「そ……んなの、当たり前……あんまり困らせるなよ」
「俺は旭を困らせたい。困らせて、困らせて、旭がずっと俺のことだけ考えて、俺につきっきりになるようにしたい」
くしゃりと眉間に皺を寄せた彼の顔は、泣き出しそうになる瞬間のミライに似ている気がした。
ぐちっと音を立てて、旭の濡れた内部にアラタのモノが入り込んでくる。彼の大きな存在感に、旭は目の前の彼のことしか考えられなくなる。それを分かっているのか、アラタは旭の思考力を奪うかのように中を突き上げた。もちろん、旭の弱いところを正確に。
「……ぁ、ふ……っ」
ミライは二階の寝室にいるのに、ついつい声を抑えてしまう。しかしアラタの容赦ない責めに、そんな配慮をする余裕も薄れていった。
「ぁ、ん……っ、あ、ぁ……っ」
旭の中の愛液をかき混ぜるように剛直が出入りする。ぶちゅ、ぶちゅという水音が家中に響いているような気がして、旭の身体を熱くした。
中からくる快楽に溺れていると、不意に胸の突起をべろりと舐められる。そのまま吸われそうになって、思わず胸を両手でガードした。
「ん……っ、そこ、は、ダメ……」
「なら、こっちを絞る」
アラタが触れてきたのは、旭の震える屹立だ。彼はまるで牛の乳搾りでもするかのように、そこをギュッギュッと揉んでくる。
「ぁ、あ……、ゃ、だ……ぁっ」
もっとちゃんと扱いて――無言で訴えると、彼の手の動きが変わった。太い楔が中を穿つタイミングに合わせて、旭のカウパー塗れの欲望がクチクチと擦られる。
「……っ、ぁん、あ……ぁ、い、く……っ」
ミルクとは違う白いものが体外に溢れ、体内ではウネウネと動く内壁でアラタを締め付ける。Ωのそれに耐えられるαなどいるはずもなく、アラタはあっけなく旭の中に精を流し込んだ。
「は……、はっ……」
荒い息を整えていても、アラタは旭の中に自身をハメたまま動こうとしない。
「おい、発情期じゃないんだから抜けるだろ。まさか抜かずの二連発?」
声をかけるとアラタの大きなモノがやっと抜けていく。くぱっと開いたところから、白くて濃い液体がどろりと溢れた。排卵する発情期以外で孕むことはないが、まるで種付けでマーキングされたような気分だ。
自分の子にすら嫉妬して、独占欲を隠そうともしない。そんな彼はまさしく身体だけ大きな子供だ。
「お風呂、行こうか」
いつもミライに話しかけるように誘うと、彼はコクリと頷いた。
ミライを風呂に入れる時と違うのは、旭が前に抱かれる側になっていることだ。アラタが背後からしっかり旭を抱いて、少し離れるのすら許そうとしない。まるで「今夜だけは」と言わんばかりだ。
「なあ……子供なんて、どうせすぐ親のこと疎ましくなって離れてくんだ。ミライが親離れしたら……俺はお前だけのものになる」
そう諭しても、アラタの腕の力は余計強くなるばかりだ。すぐ背後の気配で、イヤイヤと首を振っているのが丸分かりだった。
「お前だってミライのこと大事だろ?」
「それは……当たり前だ。あれは、旭が俺を受け入れてくれた証明そのものだから」
今日の昼間、ミライに向かって言いかけた通りの答えが返ってきて、旭は口元を緩めた。
彼の唇が旭のうなじを這い、番の痕跡の上から軽く噛まれる。
「……ん、それなら、アラタの名前もしっかり覚えてもらわないとな」
「『馬鹿』はさすがに困る」
「だから、そんなんじゃないって言ってるだろ。ちゃんと『パパ』って分かってるよ。どうせ最初の一言は『まんま』だろうけど」
「いや、とんでもない言葉かもしれない」
アラタはそう言ってから、旭のうなじをカプカプと甘噛みし続けた。
***
「はい、お口開けてー」
旭の声に、ミライがぱかっと口を開く。いつもと変わらない離乳食トレーニングの朝だ。
用意されたお粥を綺麗に平らげた頃、アラタがリビングに顔を出した。
「あ、ミライ。アラタに『ごちそうさま』は?」
旭に促されたミライは「まー」と手を上げる。
「よく言えました」
旭に頭を撫でられて彼はご機嫌だ。今ならアラタとの距離も縮められるかもしれない。
「えと、こっちのパパはアラタ。あ、ら、た」
「あー」
「俺はあ、さ、ひ」
「あー」
そこで旭とアラタは顔を見合わせた。
「区別つかないな」
「『ばー』よりはマシだ」
そこでミライは「んーんー」とリビングを指差す。
「あっち行くのか?」
ベビーチェアからリビングの床に下ろしてやると、ミライはトテトテと覚束ないハイハイで五月人形の右へ向かった。彼が向かった先にあるのは、四つのツツジの花。赤、濃いピンク、薄いピンク、白。
五月人形を挟んで左側にあるのが、アラタの貰った花だ。
「……そうか、分かった」
アラタの低い声に、旭は「何が?」と首を傾げる。
「ミライがこれを俺にくれたのは……いわゆる『ダブり』だからだ」
「はあ?」
「見ろ、ミライの所には四色ある。俺の貰った薄ピンクだけ二つあったんだ。赤はあげたくないが、ダブりの薄ピンクならあげてやらなくもない……そういうことだったんだな?」
アラタに問いかけられ、ミライは花のコレクションから顔を上げる。
「だー、ぶー……ぃ」
「喋った。初めて喋った言葉はダブり」
「違う! 今のは絶対違うからな、馬鹿」
旭がそう言うや否や、ミライはアラタに指を向けて「ばー」と笑った。
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