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第4話 呼吸を止める言葉
それから数日の時を経て訪れた機会。
夏休み直前の好機。
出席番号順に回ってきた日直は、俺と愁実の組み合わせだった。
目の前の椅子に座り、俺が日誌を書き終えるのを待っている愁実。
放課後の教室に、他のクラスメイトはいない。
2人きりの空間に、胸が高鳴る。
その反面で、緊張に身体が強 ばっていた。
俺と愁実の関係は、単なるクラスメイトでしかない。
もう少しだけ、関係性を近づけたかった。
クラスメイトのままでは、長い夏休みの間に遊びに誘うコトすら出来ない。
この機会を逃せば、きっと俺のこの想いは、なにも成し得なかった苦い初恋として終わりを迎える。
「あれ…、本気か?」
日誌にペンを走らせつつ、口を開いた。
視線も向けず、震えを捩じ伏せた声だけを愁実へと投げた。
「ん?」
なんの話だと疑問符を返してくる愁実に、ぼそりと言葉を付け足す。
「女に興味、ないって……?」
ちらりと持ち上げた瞳に、数回の瞬きで動揺を消化した愁実が反応した。
「あー、うん。マジ。気色悪ぃよな」
困り顔で笑む愁実は、無害をアピールするように両手を上げる。
「いや……」
別に嫌悪は感じていないと、なるべく軽く、さらりと否定する。
納得顔の愁実は、ゆるりと日誌の乗る机に肘をつく。
頬杖をつきながら、思い出にでも耽るかのように、ふわりと教室を見回し、口を開く。
「このクラスなら嫌がらせしてくるような陰湿なヤツいなそうだし、バレても平気かなとは思ってたんだ……。でも、腫れもの扱いされんのも嫌でさ。なかなか言い出せなかったんだけど。言えてスッキリしたわ」
清々しく笑った愁実は、言葉を繋ぐ。
「つぅことで。着替える時は、気を付けろよ?」
空気を払拭するように冗談めかした言葉を紡ぎ、ししっと笑った愁実は、手で丸を作り覗きでもするように、俺を見やる。
「更衣室なんて、マジ、ハーレムだから」
にたりと笑って見せた愁実は、手で作った覗き穴を顔に当てたままに、視線を窓へと飛ばした。
その横顔には、隠しきれない翳りが憂う。
愁実が醸している雰囲気も、冗談めかした声色も、完全なる強がりだ。
「嘘吐け。ゲイだからって男なら誰でもいいって訳でもないだろ」
苛立ちのままに棘のある声を放つ俺に、愁実は、〝お見通しかよ〞と乾いた笑いを洩らした。
「ま、ハーレムってのは嘘だけど。お前は見ちゃうんだよね、…マジ、好みだから」
外されていた視線が、ふわりと俺に戻ってきた。
真摯な愁実の眼差しに、どくんと大きく心臓が呻いた。
「ごめんな。オレ、お前が好きなんだ」
困ったように垂れる眉尻。
ほんの少しだけ赤く色づいた頬に、はにかみの笑みを乗せ、さらりと告げられた言葉に、息が喉に詰まった。
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