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第5話 夢ではない証拠

 動きを止めた俺に、愁実の瞳が、再び逃げる。 「ごめんな。キモいよな。忘れていいよ。さっきの言葉も、オレの存在も」  穏やかな音で紡がれた言葉は、不穏な空気を孕む。  存在ごと忘れてくれだなど、聞き捨てならない。 「は?」  何を言っているのだと、荒めに放ってしまった声に、愁実は困惑気味に笑む。 「気持ち悪いだろ。自分がそういう風に見られてるって思うとさ」  自分の気持ちを(けな)すように放たれた愁実の言葉に、苛立ちが胸を炙った。  カッと瞬間的に沸騰した血液に、身体が動く。  ガタンっと大きな音を立て、椅子から立ち上がり、束ねられている愁実の髪を鷲掴んでいた。  掴んだ髪をぐっと引き、この空間から逃げたそうに俯く愁実の顔を上げさせる。  驚きに瞳を開き、俺を仰ぐように見やる愁実の顔に向け、唇を落とした。  重なる唇は、愁実の震えさえも如実に伝える。 「気持ち悪くない」  真上から、驚きと動揺に塗れた愁実の顔を見やり、言葉を足す。 「俺だって、お前が好きだ」  心臓が、あり得ないほどけたたましく鳴り響き、顔が熱くなる。  勢い任せに放った告白の言葉に、今さら照れ臭さが顔を出す。 「忘れてなんてやらない。お前の告白を無かったコトになんてするつもりないから」  睨むように向ける俺の瞳に、思考回路が完全に停止している愁実のぽかんとした顔が映っていた。 「嘘、みたいだ。オレ、夢でも見てんのか?」  驚きに見開いていた愁実の瞳が、弧を描く。  現実ではないと誤認した愁実は、幸せそうに微笑んだ。  夢なら覚めるなとでもいうように、消えるなと願うように、俺の学生服の袖が、きゅっと握られる。 「夢じゃない」  もう一度、愁実の唇へとキスを落とした。  そのまま、俺を魅了して止まない愁実の上唇に少し強めに噛みついてやる。 「……っ」  愁実の身体が、痛みに跳ねた。  噛んでしまった唇を癒すように、ちろりと舐め、顔を離す。 「痛いだろ? 夢じゃない証拠だ」  ははっと笑ってやる俺に、愁実の腕が伸び、俺の首に絡んだ。 「郭遥………、好きだ」  じんわりと響く音で放たれた俺の名前と感情を伝える2文字に胸が震える。

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