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第11話 胸に溜まる鬱憤 <Side 郭遥

 流れていく景色を瞳に映しながら、車に揺られる。  濃いめのスモークが貼られている後部座席は、車外から中の様子は窺えない。  どんなに不機嫌な顔をしていようと、どんなにだらしのない格好をしていようと、誰にも咎められるコトはない。  愁実から、俺たちの関係は2人だけの秘密にしようと提案され、人前では今まで通り友達未満でいようと告げられ2週間。  学校も夏休みに、突入してしまった。  愁実が言ったように、俺には許嫁がいる。  結婚相手は、子供の頃に決められていた。  誰もが、そうなのだと思っていた。  結婚は親が決めた相手とするものなのだ、と。  医薬の世界で名を馳せる神楽(かぐら)家の長女、澪蘭(れいら)が、俺の許嫁だ。  名前だけは、知っている。  だが、話したコトも、会ったコトすらない。  勝手に決められた相手とするのだから、そんなものは単なる紙の上での契約に過ぎない。  俺の中のプライオリティは、低い。  顔も知らない相手に、恋愛感情など抱けるはずもない。  愁実とは、学校で顔を合わせれば、挨拶はするが会話は続かない。  属する集団が違うのも難点で、移動も休み時間も昼時も、会話をするチャンスなどない。  会話すら出来ないのに、触れるとなれば更に難易度は上がる。  愁実と俺は、好きだと認め合ったはずなのに、ただ眺めるだけの日々。  俺の胸には、鬱憤が溜まっていった。  だからと言って、相思相愛だと周りに言いふらすのも憚られる。  愁実が隠したがるのは、きっと巻き込まれたくないからだ。  俺のこの性癖は、世間では立派なスキャンダルだ。  その恋の相手が愁実だと世間に知られれば、火の粉が飛ぶのは、目に見えている。  下手をしたら俺ではなく、愁実が叩かれてしまう。  それは、なにがなんでも忌避すべきコトで。  夏休みに入り1週間ほどが経過した8月の頭。  スズシロ主催の懇親会に、強制参加させられた。  父親に連れ回され、付き合いのある企業の社長や常務、会長らと挨拶を交わす。  母親は、奥方たちで集まり、なにやら話し花を咲かせていた。  あと数年もすれば、俺もこの輪の中に加わり、社会を動かす1人になる。  表ではにこにこと話していても、言葉の端々で、腹を探り合っているのが見て取れ、うんざりする。  狸と狐の化かし合い。  本性を見抜けない者が、割を食い、淘汰されていく世界だ。  話の通じない堅物ばかりの空間は、息苦しく、居心地の悪さしかなかった。  未成年で酒の飲めない俺は、先に帰され、帰宅の車から流れる景色を眺めていた。

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