14 / 115
第14話 期待に色めく心
雨に濡れた姿というのは、目の毒だ。
普段から色気のある愁実に、輪をかけ色香が立ち上っていた。
微かに聞こえる床を打つシャワーの音に、心臓が落ち着きのない鼓動を刻む。
シャワー室から持ってきたバスタオルは、体を拭くためのものではなく、ベッドを汚さないためのものだ。
万が一のため……。
掛け布団を剥がし、バスタオルをそこに広げた。
俺の身体は、拭かなくてはいけないほど濡れてはいない。
ただ、どしゃ降りの中に出てしまったコトと、フォーマルなスーツが窮屈だったので、適当に見繕ってきたチノパンとラフなカラーシャツに着替えた。
―― コンッ
響いたノック音に、ゲストルームの扉を開く。
ウッドトレイを抱えた古原がそこに立っていた。
「これくらいしか用意できなかったのですが、よろしいでしょうか?」
トレイの上には、湯気の立つオニオンスープが2つと温めてくれたのであろう白パンの入った籠、カラトリーとバターケースが乗せられていた。
「ぁあ。構わない」
動線上から外れ、古原を部屋の中へと迎える。
しずしずと中へ入ってきた古原は、テキパキと動き、ダイニングテーブルの上にセッティングしていく。
俺は、シャワー室の扉を開け、びしょ濡れの愁実の衣類を回収し、自分の衣類と一緒にまとめ置く。
「これ、乾かしておいて」
食事の準備を済ませた古原に、衣類の乾燥を頼む。
「かしこまりました」
濡れた衣類を抱え、頭を下げた古原が部屋を出ていく。
部屋の奥に設置されているセミダブルベッドの端に腰を下ろす。
着替えと一緒に持ってきた物…コンドームとローションを、いくつも重なる枕の下に、隠すように忍ばせた。
父親が手を回したのであろう女とシたコトはある。
その点で、俺は童貞ではなかった。
でも、男を抱いたコトなどない。
性の対象が同性だと気づいてから得た、なんとなくの知識しかない。
だが、ほんのりと心に宿る憂いよりも、愁実とセックスができるかもしれないという興奮が、俺を色めき立たせた。
ともだちにシェアしよう!