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第17話 オレの上だけ止んだ雨 <Side 愁実

 夏休みに入って数日。  窓から見えた人影に、オレは慌て、家を出る。  アパートの階段で擦れ違ったのは、貸金の男だ。  いかにも裏家業然としたチンピラ風の男。  真っ黒なスーツに光沢のあるグレーのシャツ、隙間から覗く首許には、金色のネックレス。  切れ長の瞳が、ちらりとオレを一瞥したが、呼び止められるコトもなく、無事にすり抜けられた。  たぶん、父親への取り立てだ。  情けない父親の姿を見たくないし、一緒に恫喝されるのも嫌だった。  あいつらは、どんなに粘ったとしても、夜には面倒になり帰っていく。  それまでの時間を潰そうと、オレは図書館へと足を向けた。  図書館の前に辿り着き、〝臨時休館〞の立て札と進入防止の黄色いチェーンに呆然としてしまう。  真夏の日差しは、容赦なくオレを炙る。  だけど、金を持っていないオレは、空調の効いている喫茶店にも漫画喫茶にも行けやしない。  暫し、立て看板を眺めているオレの頬に、ぽつりと雨粒が当たった。  次の瞬間には、弱かった雨足がバケツをひっくり返したような豪雨に変わる。 「ツイてねぇな……」  雨で重くなり、視界を遮る髪を掻き上げる。  今さら、雨を避けるために慌てる気にもなれず、どうしたものかと考えあぐねる。  ふと、雨が止んだ。  オレの頭の上だけ、なにかに遮られるように雨が降らなくなった。  驚き振り返ったオレの瞳に映ったのは、正装に身を包み、ジャケットを傘代わりに立つ郭遥の姿だった。  清白の名を口にしようとしたオレの唇が、郭遥の指先に阻まれる。  少しだけ勢いの削がれた雨と、側を通り抜ける人間に、目立つその名は放つなと制された。  家まで送ると言われたが、断った。  まだ、あいつらは帰っていないだろう。  それならばと、郭遥の家に招かれた。  オレの家が、すっぽりと収まりそうなほど広い吹き抜けのエントランスに圧倒される。  濡れ鼠だというコトも忘れ、郭遥に手を引かれるままに、歩いていく。  郭遥の家は、空調が効いていて少し肌寒かった。

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