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第18話 そんな道理は存在しない

 ゲストルームは、ちょっとしたホテルの一室。  濡れたままでは風邪を引くだろうと、シャワーで温まるように促された。  大きいかもしれないと渡された郭遥の服は、袖も裾も余っていた。  裾と袖を折り曲げ、サイズを調整する。  鼻先を擽るのは、いつも郭遥から匂う柔軟剤と思われる香りだ。  袖口を折り返しながら、思わず鼻先に近づけていた。  瞳を閉じれば、まるで郭遥に抱き締められているような錯覚を生んだ。  髪を乾かし、リビングへと戻る。  なくなっていたオレの服は、乾燥に回されているらしく、食事まで出してもらった。  あまりの美味しさに、思わず呟いた声を笑われる。  身体も温まり、腹が満たされたオレは、眠気に見舞われた。  欠伸を噛み殺しながら、まだ服は乾いていないだろうかと郭遥に問う。  〝寝るか?〞と、なんでもないコトのように紡がれた郭遥の声に、過剰反応してしまった。  後ろからオレを抱き締めた郭遥が、添い寝を強情(ねだ)る。  ちゅっと響いたリップ音に、理性が働く。  はっとしたオレは、郭遥の腕の檻から、慌て脱する。 「……やっぱり、オレとこんなコトするのは、おかしいって」  情けない笑みを浮かべるオレに、郭遥は言葉の意図が理解できないというように顔を歪めた。 「おかしい…?」  苛立ちを隠しもせずに詰めてくる郭遥に気圧される。 「オレたちは男同士で、お前には許嫁がいるんだろ。オレと、なんて……」  ぼそぼそと放ったオレの声は、掠れて消えた。 「俺が好きなのは、お前だ」  はっきりと言い切った郭遥は、オレの手首を掴み、身体を寄せてくる。  片方の手首を掴まれたまま、壁と郭遥に挟まれ、動きを封じられた。  顔を背けたコトにより、郭遥の目の前に移動したオレの耳。  近づいた郭遥の唇が、オレを絆そうと囁いてくる。 「キスもセックスも、好きなヤツとしたい。……俺が好きなのは、愁実、…お前だ。なにもおかしなコトなんてないだろ?」  問うてくる言葉に、思考が濁る。  欲望のままに求めるのなら、……好きだからシたいと思うのは当たり前のコトだ。  そこに、なにもおかしなコトなどない。  だけど、郭遥もオレも、同じ男で。  まして、郭遥には許嫁がいる。  郭遥は既に、オレではない違う誰かのもので。  それをオレが横からかっ拐っていい道理が、どこにある……?

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