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第24話 清白の使用人 <Side 近江

 スズシロの当主と共に屋敷へと戻った俺は、ゲストルームから出てきた古原に目を留めた。 「誰か使ったのか?」  俺の声に反応した古原の瞳が、こちらを向いた。  その腕には使用済みと思われるバスタオルやシーツが抱き抱えられている。 「郭遥さまが初めてお友達を連れてきたのよ」  ふふっと嬉しそうに笑んだ古原は、話を続ける。  古原は1度喋り始めると、止まらなくなる。  いつもなら、〝そうか〞と一言の相槌で話を切るが、ここは聞いておかなくてはと、開きかけた口を閉じた。  俺は、この家のコト……特に郭遥に関するコトは、把握しておく責務がある。  俺、近江(おうみ) (しゅん)の仕事は、スズシロの重役たちの秘書業務と屋敷の使用人のまとめ役だ。  郭遥が、家を継ぐコトになれば、必然的にそのマネージメントも俺の仕事になる。  秘書業務と使用人としての仕事の他に、スズシロの家を守るコトも、俺の役目のひとつだ。  その中には、ボディガードの要素も含まれるが、強靭な身体を持ち合わせているわけではない。  体力で張り合わなくてはいけなくなる前に、危険を察知し回避すればいいだけの話だ。  物理的な護衛はもちろんだが、スズシロの家柄に傷がつかぬよう守るコトも、俺の仕事の一端を担う。  ここで働くようになったのは8年ほど前、19歳の頃だ。  俺の親は、ヒステリックなシングルマザーだった。  俺のするコト、なにもかにもが気に食わない母親。  父親は、どこの誰かもわからない。  すぐにキレる母親に、俺は逃げるように家出を繰り返していた。  俺が家に居ようが居まいが、母親は無関心だった。  宛もなく夜の街をふらついていた俺を拾ったのは、裏社会で幅を利かせている、比留間(ひるま)の一人息子、礼鸞(れいらん)だった。  16歳で拾われた俺は、礼鸞に自分の世話をしろと、傍に置かれた。  礼鸞の部下達の俺を見やる目は好奇に塗れ、扱いは腫れ物に触るように辿々しい。  周りにいる人間の中、毛色の違う俺を気に食わないと思う者もいただろう。  だが、礼鸞の〝お気に入り〞である俺を無下に扱う者はいなかった。  愛人だと推測する輩もいたが、礼鸞は、それを嫌がっていた。

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