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第25話 不穏な人影
礼鸞の傍に使えて、3年ほど経った頃。
〝お前は、この家業に向いていない〞と告げられた。
体躯がしっかりしている訳でも、強面でもない。
褒められる点があるとすれば、要領が良く、手先が器用な程度で、確かにこの家業に向いているとは言えなかった。
自分の傍には置いておけないと判断した礼鸞が手を回し、俺は清白家で働くようになった。
3年程だが、衣食住の世話をしてくれた礼鸞には恩義がある。
それに見合うよう、俺は清白家に尽くすコトを決めた。
「ゲリラ豪雨に出会 しちゃったみたいで、洋服の乾燥と温かい食べ物をって」
ふわりと瞳を上げた古原は、天井を見やりながら、言葉を繋ぐ。
「この家、エアコンがしっかり効いているから、濡れたままじゃ風邪引いちゃいそうですもんね」
困ったものだというように眉尻を下げて見せる古原に、俺の視線は抱きかかえているシーツへと向く。
俺の視線に気づいた古原は、ちらりと腕の中のシーツを見やり、口を開く。
「直してはあったんだけど、皺が寄っていたから、交換したの。お友達の顔色も悪かったし、お昼寝でもしてたのかしらね。若い頃って、寝ても寝ても眠かったものね」
再び、ふふっと小さく笑った古原は、皺の寄るシーツを抱き直す。
古原の能天気な思考に、心の中で溜め息を吐いた。
その連れてきた相手は、何者なのか。
スズシロの財を狙うふざけた輩だとすれば、追い払わなければいけない。
だが、郭遥の性格を考えれば、そんな相手に騙されるコトも、付け入られるコトも考えにくい。
だとすれば、本当の友人なのかもしれない。
だが、友人の家に初めて招かれたとして、そこで昼寝などするものだろうか。
考え出したらキリがない不穏な人物の存在に、胃がきりりと痛む。
俺の眉間に寄る皺を、ちらりと見やった古原が心配そうな瞳を向けてくる。
「呼び止めて悪かったな」
何事もなかったかのように話を切り上げる俺に、古原は軽く頭を下げクリーニングルームへと足を向けた。
俺はその足で、運転手の﨑田を探す。
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