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第26話 心のないブリキ
玄関から外へと赴き、駐車スペースへと足を向けた。
強めの風が俺の髪を掻き乱していく。
染めても抜いてもいないのに明るい茶色の髪は、そよ風にすら掻き乱されてしまうほど細い。
舐められぬように賢さを演出するための銀フレームの眼鏡の奥には、温度のない一重の瞳。
効率を求める合理主義。
冷酷な性格も相俟 って、俺の好感度は高くない。
管理業務に、人当たりの良さなど不必要だ。
感じが悪いくらいの方が、下で働く者たちの気も引き締まるというものだ。
裏で、〝心のないブリキ〞だと噂されているのも知っている。
だが、いちいち人に共感していては、こっちが疲弊するだけだ。
俺は、この家が守れれば、それでいい。
誰が泣き喚こうが、知ったコトじゃない。
「崎田」
車の手入れをしている崎田を見つけ、声をかけた。
慌てたように振り返った崎田は、おどおどとした瞳を向けてくる。
いつものコトだが、崎田の方が2歳ほど年上なのにも関わらず、使用人のまとめ役である俺を目の前にすると、萎縮し軽いパニック状態に陥る。
だが、これが普通であり、古原のような反応が稀なのだ。
話をするコトが生きがいのような古原には、俺の冷たさなど関係ないのだろう。
「……郭遥さまに、なにか?」
先ほどまでこの車に乗っていたのは、当主であるにも関わらず、郭遥の名が出てきたコトに、俺の眉がぴくりと動く。
「急に降りられたのは、郭遥さまで。一言お声掛けをいただければ、直ぐにお停めしましたし。信号待ちで停まっていましたから、お降りになる際にお怪我などはされていないと思ったのですが……」
焦りながら矢継ぎ早に紡がれる崎田の言葉を制し、落ち着けと口を挟む。
「言い訳はいい。責めるために来たわけじゃない。その時のコトを詳しく聞きたいだけだ」
俺の言葉に、はっと息を飲んだ崎田は、気持ちを静めるように深呼吸し、改めて口を開いた。
「会場で郭遥さまをお乗せして、こちらへと戻る際、図書館前のT字路で信号待ちをしておりましたところ、郭遥さまが車を飛び降りてしまいまして……」
崎田の瞳が、俺の顔色を窺うように、ちらちらと游ぐ。
「その際、郭遥さまが誰か連れ戻っただろう? 名は、わかるか?」
簡素に問う俺に、﨑田は思案するように宙を見詰め、あっと小さく声を漏らす。
「ぁあ、はい。シュウジツ……、と呟かれたような気もしますが、はっきりとは……」
その時の郭遥が放った名を思い出そうと考えを巡らせる崎田だが、確証は得られそうにない。
“シュウジツ”などという名の財閥も、思い当たらない。
「そうか」
待っていても、これ以上の情報は出てこないだろうと、俺は話を切り上げた。
相手を探るにしても、情報が少なすぎる。
ふと、礼鸞の顔が頭に浮かんだ。
比留間のネットワークがあれば、簡単に素性を調べられるだろうと、礼鸞に調査依頼の一報を入れた。
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