27 / 115

第27話 僅かな忍び逢い <Side 郭遥

 市立図書館の前で雨に濡れていた愁実を家へと連れてきた日から、数週間。  夏休みも終わり、2学期が始まっていた。  あれ以来、俺たちは、週に1、2度のペースで、あの図書館で一緒に勉強をしていた。  毎日、山のように出される課題を片手に、図書館を目指す。  運転手である崎田が、車での送迎を申し出たが、15分も歩けば着く距離に断りを入れた。  最初は、俺の家で勉強を教えてくれないか? と誘ったが、清白家に出入りするのは、気が引けると断られた。  あの日、〝まだ、帰れない〞と言った愁実に、お前の家で、とは言えなかった。  あの時も家に居づらく、図書館へと避難しようとしていたのだろう。  家に居づらい理由を、無理に聞き出すつもりはない。  聞いたところで力になれる保証など、どこにもない。  親子関係や家庭環境に口を出せるほど、親密な関係でも、大人でもない。  興味本位で、愁実を傷つけるのは避けたかった。  助けてもらえると期待させておいて、なにも出来ずに、傷を抉る結果になるくらいなら、触れない方がよほどいいと結論づけた。  それでも、会える場所が欲しかった俺は、模索した。  思いついたのが、図書館だった。  あの図書館で課題をすると伝えた俺に、毎日は行けないという愁実。  勝手に通うだけだから気にするなと告げながらも、愁実が来るコトを願い待っている時間は、俺の癒しとなった。  2学期が始まっても、学校での俺と愁実の関係は、単なるクラスメイトのままで、深まりなどしなかった。  それでも、人の減った放課後や、図書館で会えるのが嬉しかった。  誰もいなくなった放課後の教室や、図書館の片隅で、キスくらいは交わす。  学校と図書館での僅かな忍び逢い。  健全な高校男子が、それで満足など出来る訳もない。  もっと一緒に居られる術はないのか。  もっと関係を深くする方法はないのか。  ……俺は、常々、策を巡らせていた。

ともだちにシェアしよう!