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第29話 1ミリの愛すらないクセに
許嫁の存在など、俺の知ったコトじゃない。
父が、自分の利のために勝手に決めたコトだ。
「百歩譲り、許嫁以外の女との間に子でも出来たというなら、目も瞑る。神楽など捨て置けと言ってやる。だがな、男などに入れあげて、どうする? その関係に未来はない」
有無を言わさぬ父の鋭い瞳が、俺を刺す。
「お前が、なんの苦労も、不自由なく暮らしていられるのは、清白の家の子供だからだ。清白の家の一人息子として産まれたからには、跡継ぎを作る義務があるコトを忘れるな」
じろりと睨みを利かせた父は、不愉快だと俺を書斎から追い払う。
呼び出しておいて、最後には虫けらでも払うように追い出された。
釘を刺したかっただけなのだろう。
スズシロの金を狙うハイエナどもと馴れ合うなと、忠告でもするつもりだったのだ。
だが、愁実はハイエナじゃない。
友人でもなく、俺の愛する人だ。
妻である母にさえ愛を持たない父に、俺の気持ちなど、わかるはずもない。
許嫁など、糞喰らえだ。
18歳になる前に、許嫁なんて反故 にすればいい。
たとえそれが叶わなくとも、結婚など紙の上の話だ。
そんなのは、形だけの契約に過ぎない。
俺の気持ちを、縛れるものじゃない。
俺の心は、愁実のものだ。
父の意のままに、躾られてきた。
父が敷いたレールの上を、なんの疑いもなく歩んできた。
言われる通り。示される通り。
今までに、反発したコトなど、1度もない。
父が綺麗に舗装した道を、なんの疑いもなく歩いてきた。
そんな俺が、荒れた脇道を進むコトが出来るかは、わからない。
だが、この気持ちだけは曲げたくないと心底、思った。
なにもかにもが与えられ過ぎていて、なにかを欲しいと思ったコトなどなかった俺が、初めて〝欲しい〞と思ったもの…、それが、愁実だから。
父になんと言われようが、俺は愁実を諦めるつもりなど更々ない。
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