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第39話 予期せぬ失踪 <Side 郭遥
長い冬休みが明けたのは、卒業式前日の予行演習の日だ。
大学への進学も決まり、勉強をする必要も失せ、あのアパートは解約した。
部屋はなくなったが、図書館で会えると思っていた。
たが、ここ2週間、図書館でも愁実の姿を見ていなかった。
卒業式の予行演習には来るだろうと、さほど気にも止めていなかったが、愁実は現れなかった。
そして、卒業式にすら、姿を見せなかった。
何が起きているのかわからない俺は、それでも数日、図書館に通った。
会いに、行けばいい。
思ったところで、愁実がどこに住んでいるのかさえ、知らなかったコトに気がついた。
くっそ……。
不意に、近江が愁実の報告書を父へと差し出していたコトを思い出す。
1日の仕事が終り、父の書斎から出てきた近江を捕まえた。
「お前。愁実の住所、わかるよな?」
俺の第一声に、近江の顔が、ぴくりと引き攣った。
自分が出てきた書斎の扉へと瞳を向けた近江は、閉まっているコトを確認し、口を開く。
「知っていたとしても、お教えできませんよ」
近江の態度に、〝友人は選べ〞という父の言葉が脳裏を掠めた。
俺の横を平然と通り過ぎようとする近江の右の手首を握り、その足を止めさせた。
「お前…、何かしたのか?」
沸々とした苛立ちが、腹の底を炙った。
はぁっとあからさまな溜め息を吐いた近江が、潜めた声で愁実への行いを紡ぐ。
「手切れ金として、いくらか包んであげただけです。そこで、約束をしていただきました。…高校を卒業したら縁を切る、と」
もう、あの家も出ているかもしるませんね、と続く近江の声に、苛立ちが加速する。
「なに勝手なコトしてんの?」
近江の腕を掴んでいる手に、力が入った。
一瞬だけ、近江の顔が痛みに歪んだ。
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