39 / 115

第39話 予期せぬ失踪 <Side 郭遥

 長い冬休みが明けたのは、卒業式前日の予行演習の日だ。  大学への進学も決まり、勉強をする必要も失せ、あのアパートは解約した。  部屋はなくなったが、図書館で会えると思っていた。  たが、ここ2週間、図書館でも愁実の姿を見ていなかった。  卒業式の予行演習には来るだろうと、さほど気にも止めていなかったが、愁実は現れなかった。  そして、卒業式にすら、姿を見せなかった。  何が起きているのかわからない俺は、それでも数日、図書館に通った。  会いに、行けばいい。  思ったところで、愁実がどこに住んでいるのかさえ、知らなかったコトに気がついた。  くっそ……。  不意に、近江が愁実の報告書を父へと差し出していたコトを思い出す。  1日の仕事が終り、父の書斎から出てきた近江を捕まえた。 「お前。愁実の住所、わかるよな?」  俺の第一声に、近江の顔が、ぴくりと引き攣った。  自分が出てきた書斎の扉へと瞳を向けた近江は、閉まっているコトを確認し、口を開く。 「知っていたとしても、お教えできませんよ」  近江の態度に、〝友人は選べ〞という父の言葉が脳裏を掠めた。  俺の横を平然と通り過ぎようとする近江の右の手首を握り、その足を止めさせた。 「お前…、何かしたのか?」  沸々とした苛立ちが、腹の底を炙った。  はぁっとあからさまな溜め息を吐いた近江が、潜めた声で愁実への行いを紡ぐ。 「手切れ金として、いくらか包んであげただけです。そこで、約束をしていただきました。…高校を卒業したら縁を切る、と」  もう、あの家も出ているかもしるませんね、と続く近江の声に、苛立ちが加速する。 「なに勝手なコトしてんの?」  近江の腕を掴んでいる手に、力が入った。  一瞬だけ、近江の顔が痛みに歪んだ。

ともだちにシェアしよう!