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第41話 動かぬ食指
高校を卒業した翌日には、医薬業界の大手の神楽の娘である澪蘭と結婚させられた。
メディアでは、大手企業のスズシログループが、医薬の分野までもを手中に収めたと、大々的に報じる。
澪蘭には、精々、世間を欺く隠れ蓑として、役に立ってもらおうと、頭を切り替えた。
結婚を機に本家を出て、澪蘭との2人の暮らしが始まった。
数人の使用人を雇ってはいるが、夜には2人きりの時間が訪れる。
数日後には、春休みが開け、大学生生活が始まる。
父から宛がわれたスズシロの仕事を少しずつこなしながら、勉学にも励まなくてはいけない。
眠りにつこうと寝室に入り、2つ並ぶセミダブルのベッドの空いている方に腰を下ろした。
俺の気配を感じ取った澪蘭が、隣のベッドの上で横になっていた身体を、徐に起こす。
面白くなさそうな空気を纏った澪蘭の装いは、目の奥が痛くなるような毒々しい赤色のセクシーな下着に、着ていることにも気づけないようなシースルーの羽織りもの。
それは、間違いのないセックス・アピール。
なにも紡がなくとも、姿形 が性行為への誘いとなっていた。
たわわな双房、引き締まった腰、むっちりとした尻から太腿へのライン。
傍 から見れば、申し分のないスタイルなのだろう。
黙ったままに、ベッドの端に座っている俺の前に立った澪蘭に、手を取られた。
そのまま澪蘭の肌を這うように誘導され、その腰に回される。
「抱いてよ。子作りしなきゃ……、でしょ?」
張りのある手触りの良い肌、鼻腔を擽る甘い匂い、艶 かしい瞳と撓垂れてくる猫なで声。
こんな風に誘われれば、大概の男は簡単に獣と化すのだろう。
だが、俺の食指は微塵も動かない。
なんの興奮も、沸き上がってはこなかった。
「お前とセックスするつもりはない……」
腰に回すように誘導された手を剥がし、その身体を軽く押し退け、遠ざける。
こんな場で格好をつけたところで意味などないが、〝出来ない〞と言わないのは、男としてのちっぽけなプライド故 だ。
「俺は、お前を見ても抱きたいと思わない。そんな品のない格好されても、興醒めするだけだ……」
面倒臭さを溜め息と共に全面に押し出し、澪蘭に背を向け、身体をベッドへと横たえた。
少なからず、澪蘭には悪いとは思っている。
どんな格好をしようとも、ゲイである俺が女の身体に興奮するコトなど、あるばすもない。
そんな俺の元に嫁がされた澪蘭には、同情する。
だが、無理を押してまで、澪蘭を抱いてやる義理はない。
澪蘭は、研究費の援助目的にスズシロへと嫁いできたのだから。
―― バタンッ!
苛立ちを扉にぶつけ、部屋を出た澪蘭。
追いかけるつもりも、機嫌を取るつもりもない俺は、そのまま眠りについた。
数日後、澪蘭は滅菌された透明なネジカップを俺に差し出した。
抱かなくていいから、1週間の禁欲のあと、その容器に精液を入れて渡せと告げてきた。
医療の力で、子供を授かろうと考えたらしい。
俺は、その話に乗った。
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