45 / 115
第45話 交錯する空気感
想いを寄せあっている者同士が、愛を紡ぐための行為…、なんかじゃない。
ただ、黙っていたって沸々と溜まっていく性欲を解放するだけのもの。
繁殖にすら繋がらない俺たちの交わりは、獣よりも劣る。
立ったままでも出来るでしょ? とでもいうように、三崎の腕が俺の首に絡む。
「普通のホテルに入るにしても、周りの目、気になるしね……。無駄に神経を尖らせるくらいなら、ここでいいかなって。ここ、俺の店だから、なんの心配もないよ」
ふふっと優雅に笑みを浮かべる三崎。
「俺の店?」
引っ掛かった言葉を鸚鵡返しする。
〝俺の店〞と称するからには、〝雇われ店長〞のような使われている立場ではなく、経営から従業員の管理まで、使う側の立場なのだろうと連想された。
21歳で店の経営か……、なかなかの手練れだな。
感心の思いを乗せた瞳を向ける俺に、三崎は相変わらずの胡散臭げな笑みを湛える。
「ぁあ、うん。レディに貰ったんだ」
この界隈では有名な〝レディ〞こと、千我原 珠吏 。
水商売上がりの彼女だが、今では一端 の資産家だ。
政治家や代議士たちに気に入られ、貢ぎ物を元手に、わらしべ長者さながらに今の地位を築いたらしい。
自分がそうされてきたせいか、彼女は気に入った相手になら、資産の譲渡も惜しまない。
店は狭いながらも、立地場所は一等地。
この店が、レディからの貢ぎ物だとすれば、三崎には人たらしの才があるのだろうと、再び視線を巡らせた。
店の端には、場違いな空気に居心地の悪そうなカラオケの機器が、静かに佇む。
カラオケが設置されているということは、防音は万全といったところか。
無意識に、その機器に瞳を留めていた俺に、三崎が視線の先を見やる。
「元から置いてあっただけで、今は使ってないよ。……歌いたいの?」
きょとんとした音を混ぜながら問われた言葉に、俺は首を横に振るった。
「防音は完璧ってコトか…って思っただけ」
にたりとした笑みを、浮かべてやった。
淫靡な絡みつくような空気と、じゃれつくような軽い空気が交錯する。
カラオケの機器から三崎へと戻した視界の端で、キラリと監視カメラのレンズが反射した。
「あの監視カメラで、俺の痴態でも撮るつもりか?」
俺は、すっと瞳を細める。
三崎の全てを、信じた訳じゃない。
たとえ、撮られ脅されたとしたところで、弱みとは思わないが、軽い牽制を挟んでおく。
お見通しだと放った俺の声も、三崎はあっさりと笑い飛ばす。
「ちゃんと切ってあるよ。潰されたくないって言ったでしょ? 俺も覗かれるのは、あまり好きじゃないしね」
抜かりはないと胸を張った三崎は、もう待てないとでもいうように、顔を寄せた。
「ちゅーは? する?」
べろりと舌を舐めずる姿は、獲物を前にした肉食獣そのものだ。
ともだちにシェアしよう!