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第49話 不自由のない生活は楽しくない

 あっ、と小さく声を漏らし、バーカウンターに両肘を立てた三崎は、頬杖をつき俺を見やる。 「どちらかと言えば、俺の方がスズシロの力になれるんじゃないかな?」  こてんっと可愛らしく、三崎は首を傾げて見せる。  可愛さと色気が混在する不思議な魅力を持っている三崎に、掌の上で転がされているような感覚が拭えない。  俺は、じっと見詰めてくる三崎の視線から逃れるように、顔を背けた。 「まぁ、お金に困ってるわけでもないから、無理に仕事くれなくてもいいんだけどね」  そっぽを向いてしまった俺に、絆されてくれないのかと、三崎は諦める。 「興味って、なんだよ……」  面白くなさげに零した俺の言葉に、三崎は頬杖を解き、くるりと身体を翻した。  俺に背を向けたまま、ビールグラスに手を伸ばした三崎は、独り言のように回答を紡ぐ。 「生まれながらの勝ち組って、どうなのかなって。お金には困らないかもだけど、なんだか窮屈そうだなって」  息苦しそうに放たれた三崎の声には、嫌気が滲む。 「好きなものを好きだって言えないなんて、窮屈以外の何ものでもないでしょ」  三崎は、すべてを見透かしている。  俺の結婚が、政略結婚であり、そこに愛がないコトも。  ゲイであるとカミングアウトするコトすら、許されない現状も。  たぶん、愁実への想いを諦めたコトも……。  思い描いてしまった愁実の姿に、無意識に手を握る。  握ったところで、愁実がこの手の中に戻ってくるコトなど、ありはしないのに。 「窮屈だとしても、なに不自由のない生活をさせてもらってるんだ。清白の家を守っていくのは、当たり前だろ」  取り戻そうと握った手を開き、グラスを掴んだ。  投げ遣りな感情を隠すつもりなど、さらさらない。  だが、高いレベルの生活が送れているのは、清白の家柄があってこそに他ならない。  勝ち組の生活を続けたいのであれば、俺は父親の意向に背くコトは許されない。 「なに不自由のない生活…、ね」  ふぅっと小さく疲れたような溜め息を吐いた三崎は、ビールで満たしたグラスを手に、俺の前に立った。 「お金や地位…それも大事だけど、自分の心を殺してまで、今の生活を守る意味なんてあるのかな?」  バーカウンターの上に置かれたビールグラスの中で、白い泡がぐわりと揺らぐ。 「好きなように恋愛も出来ない。好きなものを好きって言うコトすら許されない。そんな抑圧された人生が、楽しいだなんて俺は思えないなぁ」

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