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第52話 心なんていらない <Side 三崎

 気持ちいいコトは、好き。  だけど、そこに乗っている重たい感情は、必要ない。  好きも、嫌いも、愛も、嫉妬も…、俺にはすべて、鬱陶しく邪魔なもの。  身体の関係は築けても、心の繋がりを持とうとは思わない。  人を好きだなんて、気になるだなんて、微塵も感じたコトはなかった。  そんな俺が、郭遥に興味を持ったのは、泊里の一言からだった。 「ミサ。この後、セックスしねぇ?」  〝恒春葛〞のバーカウンターでグラスを磨く俺に、客である男が、ビールグラスを傾けながら声だけを投げてきた。  〝ミサ〞は、ホスト時代からの俺の源氏名だ。 「3時には上がれるよ」  ここで言う3時は、真夜中のコト。  俺も、男には一瞥すらくれずに声を返した。 「〝ハルア〞でいっか。あとで部屋番号送るな」  〝ハルア〞は、ここから徒歩5分ほどのホテル街にあるラブホの名前。  ビールグラスを空にした男は、チャージ代を含む金をカウンターの上に置き、腰を上げる。 「ん。わかった。あとでね」  磨いているグラスに向かったまま、了承の意を声にして伝えた。  視線も合わせず、口だけで交わす約束。  男の左手の薬指には、シンプルな指輪が光っていた。  俺に、道徳感なんてない。  口約束を交わした相手の男は、既婚者だ。  俺と男の関係は、身体の関係だけの所謂セフレと言うものだ。  そこに愛も、恋もない。  あるのは、肉欲くらいなものだ。  この男との出会いは、レディが主催したパーティだった。  〝レディが主催するパーティ〞などという言葉で表せば、高貴なものが想像されるが、平たく言えば、彼女の目を楽しませる男だけの乱交の場。  顔や容姿が整った男たちが集められたレディの目の保養所といったところだ。

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