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第53話 レディの遊び場

 俺は、年齢を誤魔化し、17歳からホストとして働き始めた。  入店から1ヶ月も経たないうちに俺を指名してきたのが、〝レディ〞こと千我原 珠吏だった。 「お小遣いをあげるから、パーティに参加してみない?」  30歳は優に超しているはずのレディだが、20代前半といっても通じるほど若々しい。  そんな若い女が、俺の目の前で、万札を10枚ほど、ちらつかせて見せてくる。  胡散臭さがない訳じゃない。  だが、レディはこの辺では名の通った資産家だ。  彼女にとって、10万などはした金なのだろうと感じた。  そんな彼女が、見せるだけ見せておいて、いざとなったら出し渋るようなせこい真似をするとは思えなかった。  多少の懸念はあったが、簡単に興味が疑心を上回る。  最初に案内されたのは、レディが見学するための部屋だった。  そこから見えたのは、下着のみを着けた男が8名程いる360度ガラス張りの空間だ。 「あそこに入ってくれるなら、今日の5倍は出してあげる」  レディは、この別室から戯れる俺たちの姿を優雅に眺めるのが趣味だと伝えられた。 「気が乗らないなら、帰ってもいいわよ。今日あげたお小遣いも、持って帰ってもらってかまわないわよ」  ふふっと笑うレディの姿は、俺に渡した小遣いなど取るに足らない金だと物語る。  羞恥を我慢するのか。尊厳を守るのか。  ……俺は元々、守らなくてはいけない尊厳など持ち合わせてはいなかった。  多額の金を積まれれば、そんなもの簡単に捨ててしまえた。  元来、()られるコトに興奮する(たち)ではないが、恥ずかしがっていたところで、何かが変わる訳じゃなかった。  金に目が眩んだ俺は、自分でこの透明な檻に入るコトを決めた。  それならばと開き直り、羞恥心は、丸めて捨てるコトにした。  集中すれば、他人(ひと)の目など気にならなくなっていった。  パーティでは、時折、レディの要望が伝えられるときもあった。  〝独りで慰める姿が見たい〞、〝イチャつく姿が見たい〞、〝セックスして見せて〞…、レディの要望には、すべて答えた。  応えれば、応えるだけ、お小遣いは増え、レディには可愛がられるようになった。  レディのお仲間であろうマダムたちが見学に訪れるコトもあったが、気にしたコトはない。  何人かのマダムは、この〝レディの遊び場〞で俺を見つけ、可愛がってくれるようになっていった。  日により参加する顔ぶれは、違った。  既婚者の男とも何度か、ここで会っていた。  檻の中に入れられたとしても、なにかの制限があるわけではなく、そこから出た瞬間、自由になる。  ここで出会い、恋仲になった者たちもいる。  パーティに参加するようになって1年が過ぎた頃。  レディの傍にいた男に見込まれ、事件屋としての仕事をするようになった。  次第に、パーティへの参加回数は減少していき、主軸で事件屋の仕事をこなしながら、夜の仕事も手掛けるようになっていった。  レディから店をもらい受け、経営から全てを自分で回せるようになったのは、最近の話だ。

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