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第57話 嫌な予感 <Side 郭遥

 妻である澪蘭の進言で、医療の力を借り授かり産まれた子は、郭騎(ひろき)と名付けた。  その小さな手で指先を握られ、にこりと笑われれば情も湧いた。  だが、子供の顔を見る度に、〝妻すら抱けないお前は、能無しだ〞と罵られ、責められているような気がしていた。  運良く1人目で男の子を授かり、澪蘭との間にある俺の役目は終わったのだと安堵する。  出産を終えた澪蘭は、子育てを使用人に任せ、遊び歩くコトが増えていった。  俺と同じ歳…、19歳という年齢を考えれば、家に縛りつける訳にもいかず、放っていたが、近頃は具合が悪そうに寝込んでいる日が増えてきていた。  ……嫌な予感はしていた。  郭騎を授かった時も、澪蘭は悪阻(つわり)に悩まされていた。  だか、外に男の影はない。  その辺りは、清白の家も、神楽家も、さらには比留間の人間さえも目を光らせているはずだ。  清白に嫁いだ澪蘭に、不貞など許される訳がない……。  三崎とは、初めのバーでのセックスの後は、俺が手配したホテルの一室で会うようになっていた。  今日の部屋は、バーカウンターのあるスイートルームだ。  俺が気を許せる相手は三崎くらいなのもで、どこか足りないものを補い合うように、俺たちは共にいるコトが増えていった。  〝俺のものにはならない〞と言った通り、三崎から、俺への色恋の情は感じ取れなかった。  そこにあるのは、あくまで割り切った身体の関係と、友情の枠をはみ出さない程度の情。  俺もまた、〝三崎のもの〞になりたいとは感じていないし、三崎を〝自分のもの〞にしてしまいたいという感情も生まれなかった。  1人の人間として、三崎に好意は抱いたが、それは色恋の情とは無縁だった。  セフレ以上恋人未満の絶妙な距離感。  だけど、すべてを型に嵌める必要もない。  恋人であろうと友人であろうと、こうでなくてはならないという決まりなど、有りはしない。  いつものように、愛のないセックスで欲望を発散した俺たちは、別々にシャワーを浴びる。  ホテルのバスローブに着替え、バーカウンターの椅子に腰を下ろす俺の耳に、バスルームから響くシャワーの音が届いていた。  シャワーでざっと身体を流し戻った三崎は、当たり前のようにカウンターを挟んだ対面に立つ。 「今日は仕事じゃないんだ。こっちで飲めよ」  隣を指先でトントンっと叩く俺。 「そうだね」  相変わらずの胡散臭い笑みを顔に乗せた三崎は、俺の前によく冷えたジンジャーエールのグラスを置き、缶ビールを片手にカウンターから出てくる。

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