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第59話 要らぬ杞憂

「随分、気に入ってんだな」  片肘をカウンターに立て、手の上に頬を乗せる。  頬杖をつきながら、惚気る三崎を揶揄ってやった。 「……そんなんじゃないよ。放っておいて餓死とかされても、後味悪いでしょ」  自分が嫌な思いをしないためにしたまでだと、眉尻を下げる三崎。 「そんな小さいコなのか? でも、仕事、手伝わせてんだろ?」  拾ったという人物の年齢が掴めず、首を傾げた。 「もう少しで中学卒業かな。天原(あまはら) (なお)くん…、このまま傍に居てくれるようなら、後々は仕事を引き継ごうと思ってるから、名前は覚えておいてね」  首を捻りながら三崎を見やっている俺に、相変わらずの綺麗な笑顔が向けられる。  中学3年で餓死はないだろうと思ったが、あえて口は挟まなかった。 「まぁ、比留間みたいに大きなバックがいる郭遥には、必要ないかもだけど」  繋がった三崎の言葉に、俺は首を横に振るった。 「そうでもない。比留間を動かすと、事が大きくなりがちだからな。お前は、意外に重宝してるよ」  ははっと声を立てる俺に、三崎は笑みを深めた。  実際問題、言葉通りだった。  死人に口無しとでもいうように人を(あや)めるコトも視野に動く比留間に対し、三崎は極力、恨みを買わないように対処する。  鮮やかなまでに、賢く揉め事を解決まで導く三崎の手腕には、一目置いている。 「そう? 建前でも嬉しいよ」  照れたように瞳を伏せる三崎に、俺は引っ掛かった言葉の真意を掘り下げる。 「引き継ぐって、事件屋の方の仕事を、か?」 「そうだよ。俺もずっと、現役って訳にもいかないしね」  まだ22歳だ。  現役から退くコトを考えるには、時期尚早に思えた。 「そんなのまだまだ先だろ? 体力だって、頭のキレだって……、これからなんじゃないのか?」  不思議そうに見詰める俺に、三崎の瞳は、ずっと先へと向けられる。 「育てるのにも時間がかかるからね。荒っぽいコトは、元から好きじゃないし、〝恒春葛〞をもらって働きだしてから楽しくなってきちゃって」  ふふっと小さく笑う三崎に、俺は納得していた。  シャワーとビールに(ほて)らされた顔を冷やすように、ぺたりとバーカウンターに頬を寄せた三崎。 「郭遥は? なんか変わったコトは?」  ゆるく(まばた)きながは、とろりとした瞳を俺に向けた。 「……なにもないよ」  天原を育てながら経営も学んでいる最中なのであろう三崎に、俺の杞憂を介意する暇などなさそうだと、自分の話は伏せた。  ドライヤー後のふわふわとした三崎の髪を指先で弄りながら、心に引っ掛かっている憂いと一緒に、少し薄くなったジンジャーエールと共に喉の奥へと流し込んだ。

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