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第62話 俺の預かりで

 漠然とだが、相手の察しはついていた。  遊び歩いてはいるものの、周りの目がある澪蘭と親密な関係になれる人間など限られる。  ……近江。  スズシロの重役たちの秘書業務を担う近江は、(のち)の当主たる俺の家庭も蔑ろには出来ない。  主たる業務は、父親の住む本家の使用人だが、時折、俺の家にも顔を出していた。  近江が訪れる日の澪蘭は、目の色が違った。  あからさまな化粧の濃さに、わざととしか思えない胸許が大きく開いたブラウス。  俺には感じられない女の色香を纏っていた。  抱けない負い目のある俺は、そんな澪蘭を叱るコトすら出来なかった。  だが、使用人に妻を寝取られたなど、恥以外の何ものでもない。  見て見ぬふりを出来るコトじゃない。 「そのうち、検体を渡す。……でも、結果は知らせなくていい」  調べておいてもらって、損はない。  だが、事実を知るには、もう少しだけ心の準備をしたかった。  小さく首を横に振るった俺に、見詰めている三崎の瞳が優しげに三日月を描く。 「わかった。結果は俺が預かっておいてあげる」  慰めるかのように三崎の手が、俺の頬に触れ撫でる。  意識の端が、他所(そよ)を向いていた先程の行為。  たぶん三崎は、満足していない。  想いを寄越せとは言わないが、肉欲の捌け口は自分が請け負うと決めた三崎は、漫然たるセックスに納得しない。  不完全燃焼で熱が燻る身体のままに、俺の頬を撫でる三崎には、俺の芯を震えさせる色気を醸す。  三崎の身体を、再びベッドへと沈めた。  頭を下げた四つん這いの形を取らされた三崎が、蠱惑の色を浮かべる瞳を俺へと向ける。 「もう一発、付き合えよ。次は満足させてやるから……」  背骨に沿い舌を滑らせる俺に、三崎は靭やかに背を反らせ、小さく啼いた。  数日後。  俺と2人目の子供、遥征(はるゆき)…、それと父親である可能性の高い近江の検体を、三崎に預けた。

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