カウンターキッチン越しに俺を見ていた澪蘭の視線が、右腕を凝視していた。 　すいっと伸びてくる澪蘭の指先に、はっとする。 　俺は慌て、捲り上げていた右の袖を下げようと動いたが、澪蘭の手が先にそこに触れた。 「……綺麗ね」 　そこには、鮮やかな鸞鳥(らんちょう)が描かれていた。 　礼鸞の元に居た時に入れた刺青。 　身の回りの世話をしろと傍に置かれた際、初めて本物の刺青を見た。 　礼鸞の背中に描かれていたのは、登り龍だった。 　それをカッコいいと褒めた俺に、〝オレの傍にいるなら、入れといた方が無難か〞と、彫り師を紹介された。 　礼鸞の指示で入れられた刺青は、左足の膝上から尻にかけ、腿に絡みつくように登る龍。 　螺旋を描き這いずる龍は、尻で睨みを利かせている。 　その際に、右の腕……手首から肘にかけ、礼鸞と同じ字を持つ鳥、鸞鳥の刺青も入れてもらっていた。 「他には、入れてないの？」 　無垢な瞳で尋ねてくる澪蘭に、足にも入れていると白状するべきか、少しだけ逡巡した。 　こんなものを見せられ、怖くないのかという疑問も沸いていた。 　右肘から手首にかけ描かれた鸞鳥を、きらきらとした瞳で見詰める澪蘭。 　そこに浮かんでいるのは、純粋な興味の色だ。 　厳しく躾られてきた反動で、悪い人間への変な憧れを持ってしまっただけなのかもしれない。 「左の足にも、ありますよ……」 　こんな話題でも、澪蘭の気持ちを軽くできるのなら…と、俺は左足にも彫られているコトを告げた。 「膝から尻にかけて、龍が巻きついています」 　濡れた手を軽くタオルで拭い、膝上から外腿を這い尻へと続く、龍の軌跡を辿る。 「見たいっ」 　跳ねるような楽しげな声を向けられる。 　見せるには、スラックスを脱いで腿を曝さねばならない。 「足と言っても、腿から尻にかけてなのですが……」 　お願いと強情る姿に色香は感じられず、子供のような瞳で、せがまれた。 　あまりにも真っ直ぐな好奇心に、少しばかり気圧される。 　いやらしい目で見たいと言っているわけではないのだと感じた俺は、素直にベルトを外し、スラックスを摺り下げ、足の龍を澪蘭の瞳に曝す。 　するっとしゃがみ込んだ澪蘭の手が、尻側の下着の裾を摘まんだ。 「ダメですよ。これ以上は……」 　今更ながら恥ずかしくなり、叱るように澪蘭の手を掴み、そこから剥がした。 　その時は、澪蘭もあっさりと諦めた。